野党の挑発は首相人気を高める逆効果 --- 中村 仁


▲野党の挑発も不発で安倍総理は悠々(アゴラ編集部、首相官邸サイトより)

本音が聞けるほうが面白い


国会審議で民主党などは、安倍首相を挑発して、失言を引き出そうとする作戦をいまだに続けています。テレビ・ニュースでその様子を拝見していますと、挑発作戦はまあ空振りです。空振りどころか、首相の人気を逆にあおる結果を招いているのではないですか。

何事にも強気のほうが支持率を高めると信じている首相は、ずけずけ質問の弱点をついて逆襲します。はらはらする与党内部からは「挑発にうっかり乗っていると、失言でつまずく恐れがある」との声も聞かれます。私も始めはそう思っていました。それが最近では、挑発に乗った安部首相の人気はあがり、挑発している民主党が人気を下げていると考えるようになりました。

昨年でしたか、安全保障法案めぐる委員会審議で、質問なのか、自説の展開なのか分らない野党議員に、首相は「早く質問しろよ」とか、ヤジを飛ばしました。そのころはイライラが募っている、首相として品位がないなど、否定的ないし批判的な見方が多かったですね。あるいは1強体制で自信過剰になっており、傲慢だというメディアの論調もありました。どうも様子が変わりました。

下手な揚げ足取りで失点


今国会では、首相の答弁が曖昧だという質問に対し、「国会はクイズの場ではない。事前に質問通告がなかったから答えられなかった」と、逆襲しました。女性就業者の実態をめぐる答弁でした。これに限らず、民主党議員からの揚げ足取りのような発言が目立ち、「民主党は本質的な質疑にもっていくべきだ。下手すぎる質疑で失点を重ねている」と、痛感している有権者は多いのです。

民主党議員は不勉強で、しかも失点狙いの質問が多く、首相側の逆襲に会うと、「首相のほうが本音を言っている」と思う国民は少なくないでしょう。質問者が党首となると、つたない論戦は民主党全体の評価を下げます。甘利氏の違法献金問題では、「アベノミクスに影響が出ているというなら具体的にいってほしい。無責任な中傷誹謗に過ぎない。言いがかりには答えようがない」と、首相は言いたい放題です。

この口利き疑惑では、政権側が野党に攻め込まれる展開が普通なのに、そうなってはいないのですね。秘書が10回以上も都市再生機構側と会ったという事実は、圧力そのものでしょう。ザル法とい言われる政治資金規正法にしろ、問題点をいくらでも突けるはずなのにです。

報道機関は“萎縮”していますよ


「安倍政権下で報道機関が萎縮している」と迫った議員は、首相に「全くしていない。帰りに日刊ゲンダイでも読んでみて下さい」と、一蹴されました。ひどい答弁です。まともな報道機関かどうか疑わしい新聞を持ち出したら、本来なら首相の負けです。テレビのキャスターが次々に降板する不自然さ、首相がしばしば特定の新聞と会食するという不思議さなど、視聴者や読者が「なぜだろう」と考える材料はいくらでもあるはずなのです。

政権にとって悪材料が目立つのに、支持率は持ち直し、50%前後を維持しています。国会論戦をみても、責めあぐねる野党、本音をずばりいう首相という構図に有権者は「首相のほうがどうやらまともだ」と、感じているのでしょう。国会発言における建て前、駆け引きが先行し、国民はいらいらしています。本音を聞くと、生の政治に触れ、すっきりした感じになるのでしょうか。

とにかく挑発に乗せられたほうが有利に戦っているのです。挑発といえば、北朝鮮の核実験、それに続く長距離弾道ミサイルの発射予告は、「ひどい国だ。こういう時こそ政治がしっかり対応してほしい」と、有権者は思っています。つまり脅しを受けた側、特に日本の政権にとっては支持率を高める結果をもたらしています。世論調査はそのことを示しています。

民主党は安倍人気の立役者


民主党の鳩山・元首相は「東シナ海を友愛の海に」と現実離れしたことをおっしゃいました。菅・元首相は東日本大震災の発生直後、福島原発にヘリで直行しました。万一のことがあった場合に備え、総指揮官は後方に控えているべきだという戦略の初歩すら知らなかったのです。

そして、今、アベノミクスは大冒険の異次元金利に踏み込み、その効果もないのか株価、為替相場は逆戻りし、危機対応は迷路にはまり込みました。岡田さん、いつまでも低レベルの問答を繰り返しているのですか。いつまで民主党は、安倍人気の影の立役者を続けるのですか。

中村 仁
読売新聞で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。その後、中央公論新社、読売新聞大阪本社の社長を歴任した。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。