中国の経済成長に急ブレーキがかかり、世界経済にも影響しはじめています。ついこの間までは、中国熱に浮かれていたドイツや韓国も、中国と距離を置かざるをえなくなってきました。もともと、EU諸国や韓国とは異なり、中国経済に懐疑的だった日本では、過敏に反応し、もう中国経済が崩壊し始めたような主張すら現れはじめています。いやきっと、中国経済は終わったとほんとうに思っている人もいらっしゃるのでしょう。
中国経済に疑心暗鬼となる大きな理由は、実態がよくわからないことでしょう。政府の発表する統計が信用出来ないからです。公表された2015年のGDPは、前年同期比6.9%でしたが、ほんとうはゼロ成長だったのではないか、いやもしかするとマイナス成長だったのではないかという見方すらあります。
しかし、中国経済に変調が訪れたにもかかわらず、いまだに中国からの訪日観光客は減らず、この春節のLCCも、日本のホテルもすべて予約で埋まり、爆買の中味に変化が起こってきている、あるいは」モノを買う」から「体験するコト」へと消費が変わってきたとしても、中国人観光客のインバウンド消費はいまなお旺盛です。
グラフは、訪日観光客数の伸び率の推移ですが、倍々ゲームさながらです。
おかしいですね。旅行需要はその時の経済状態に影響されやすく、リーマンショックの時は、訪日外国人観光客が2割近く落ち込んでいます。
考えられるのは、どうも経済減速していることは間違いないとしても、日本で懸念されているよりは緩やかだということでしょうか。中国経済に陰りがでてきたのは、中国が民主主義国家でないからでも、共産党の一党独裁だからでもなく、製造業中心、輸出依存度の高い経済の限界に達したからです。
日本はそんな壁、また挫折を二度経験しています。最初がオイルショックでした。高度成長が終わったのです。そして次はバブルの崩壊です。こういった産業構造の限界による変化は案外緩やかで、時代を動かす空気にはすぐにはなりません。そうして、ゆるやかに日本は沈んできました。
高度成長の終焉で日本は変わらないといけないといろいろ言われましたが、日本の企業が変わるには時間がかかりました。佐々木俊尚さんがおっしゃっていたことですが、日本でバブルが崩壊したのは1991年ですが、お立ち台で浮かれて踊る光景、まさにバブルの象徴的存在だったジュリアナ東京のピークは1995年でした。もちろん不動産や金融などの業界はバブル崩壊で即座に複雑骨折をしてしまいますが、時代の空気がほんとうに変わるには、5年ほどかかるということでしょう。
今の中国は日本の高度成長が終わった頃と重なって見えてきます。その後も日本の勢いは止まらず、多くの分野で世界市場を席巻するのですが、長くは続きませんでした。
産業構造を変えるには時間を要します。安倍政権が声高に叫んでも、政府ができることは規制緩和ぐらいだからです。財政出動は時代に適応できなくなった産業をゾンビ化しがちなので、悪循環を起こします。
中国は間違いなく日本が辿ってきたように、長い停滞期に向かっていきます。これまでは、価格競争力で製造業でのシェアを先進国から奪ってきたのですが、もうこれ以上に需要が伸びることはなく、成長の伸びしろがなくなってしまったからです。
しかし視点を変えれば、さすがに中国は人口が多く、クレディ・スミス銀行の「2015年度グローバル・ウェルス・レポート」によると、中流階級を5万~50万米ドルの資産をもつ成人とすれば、中国は1億9百万人で、二位の米国が92百万人、三位の日本が62百万人と中流階級のボリュームで世界一です。
■2015年国別中流階級の成人人口(百万人)
プレスリリース(PDF)
そして、純資産額5,000万ドル以上の「超富裕層」の数でも、2015年で1位はさすがに米国で、およそ5万9千人。ついで中国がおよそ9,600人です。しかも2014年から24%近く増加しています。日本は2,500人程度でしかありません。
つまり、中国の中産階級や富裕層を失わなければ、インバウンド消費を支えるターゲットはいるということでしょうし、そういった階層の需要を取り込むビジネスには、まだまだチャンスがありそうです。
中国経済のつまづきを嗤うよりは、はるかに経済の活力を失い、このままではいくら防衛費を増やしても、存在感がどんどん薄れ、外交力も落ちていく我が国のことを心配したほうがいいのではないかと感じます。ビジネスの世界がそうであるように、自らの敵は、外にいるライバルではなく、内に潜んでいるものです。