安倍首相は、憲法のどこを変えようとしているのか?

田原 総一朗

002-3前回、僕はここで、「ダブル選挙に勝ったら、安倍首相は憲法改正するだろう」と書いた。そしてその後、安倍晋三首相は1月21日の参院決算委員会で、「どの条項について改正すべきかという、新たな現実的な段階に移ってきた」と明言している。

こうした発言を聞いていると僕は、安倍首相の考えは「まず憲法改正ありき」という感じがしてならないのだ。変える必要があって、あるいは国民の発議があって改正するのではない。「変えたいから変える」、「じゃあ項目はどれにしよう」、ということではないか、と。だから、多くの国民が不安を覚えるのだ。

僕は、憲法改正を頭ごなしに否定するわけではない。ただし、憲法改正をいうなら、改正の必要性と、どの条項を変えるのかを、国民にきちんと正面から問うべきだと思う。

このような状況のなかで、自民党政調会長の稲田朋美さんが「激論!クロスファイア」に出演、「日本の近現代史を今なぜ検証?」をテーマに激論を交わす機会を得た。結論をいえば、僕は稲田さんとは歴史認識についての考えが合わないようだ。

例えば、僕は「あの戦争」は、侵略戦争だったと考える。一方、稲田さんは、「侵略」という定義そのものに疑問を持つのだ。だが、満州事変、日中戦争と、話が進んでいくうちに、稲田さんは、「政治家が軍部をおさえられず、軍の暴走を事後承認する形になっていったことについて、深く反省しなければならない」とも語っていた。

その点は、僕もまったく同感だ。歴史を学ぶ意義のひとつに、過ちを繰り返さないということがある。戦後日本の大きな失敗は、「あの戦争」を自分たちの手で、きちんと「総括」しなかったことだ。そして、この「総括すべき」という点でも僕たちの意見は一致した。

稲田さんと僕は、お互いに異なる考えを持っている。だが、とことん話をすれば、このように共通点も見いだせるのだ。ところが、いま、こうした議論を、メディアが避けているように僕には思えてならない。

番組の最後で、稲田さんは、「自分の考えとしては、憲法9条2項は変えるべき」とはっきり口にした。9条2項とは「戦力不保持」をうたった条文だ。

このことについては、稲田さんと、さらにとことん話をしてみたいと思っている。憲法改正を国民が本当に求めているのか、本当に憲法改正が必要なのか、今後、議論が重ねられなければならない。

いま、日本は大きな転換期を迎えている。それは間違いない。進むべき道を誤ってはいけない。そのためにも、僕たちはもっと議論をしていかなければならない。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年2月8日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。