【映画評】ドラゴン・ブレイド

渡 まち子

紀元前50年、前漢時代の中国。シルクロードでは36の部族が抗争を繰り広げていた。前漢西域警備隊でその地の平和を守る司令官フォ・アンは、金貨密輸の濡れ衣で反逆者の汚名を着せられ、部下とともに西域辺境の雁門関に送られる。彼が部下と共に雁門関に流されてから数日後、将軍ルシウス率いるローマ帝国軍が現れる。ルシウスは、執政官の長男ティベリウスから命を狙われているティベリウスの弟を守っていた。フォ・アンとルシウスは、国や民族の違いを超えて友情を深め合うが、ティベリウスは中国侵略を目論んでいた…。

ジャッキー・チェンが平和を願いながら闘いに身を投じる男を演じる歴史スペクタクル・アクション「ドラゴン・ブレイド」。60歳を超えたジャッキーが、映画人生をかけて作り上げたスケールの大きい歴史劇は、ハリウッドとのコラボで、少し不思議な味わいになった。ゲームのようなタイトルがついているが、映画は、シルクロードで、2000年前に、中国とローマ帝国が戦ったという史実をモチーフにしている。戦闘シーンが見せ場ということもあり、かなり血生臭い描写も盛り込まれているのが、ジャッキー作品らしくない点だが、それだけリアルにこだわったのだろう。

中国側が、カンフーに代表される個人技の武術で戦うのに対し、ローマ軍は集団の戦術に長けている。さらに土木技術などの文明の点でもローマは優れていた。しかし、常に領土拡大と征服を目指すローマ帝国に対し、フォ・アンに代表される中国は、できるだけ争いを避け平和を模索しようとする。現代の世界情勢の中の中国の立ち位置を考えると、素直に納得できない設定なのだが、そこは製作、アクション監督、主演を兼務したジャッキー・チェンの気概に免じて目をつぶるしかない。ストーリーは大味だし、フォ・アンとルシウスの友情も表層的。そんな中、悪役ティベリウスを怪演するエイドリアン・ブロディは、異様な存在感だった。名もないヒーローが歴史を作る。ジャッキー・チェンという人は、個の善性をどこまでも信じてるのだ。
【50点】
(原題「DRAGON BLADE」)
(中国・香港/ダニエル・リー監督/ジャッキー・チェン、ジョン・キューザック、エイドリアン・ブロディ、他)
(スペクタクル度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年2月13日の記事を転載させていただきました(画像は公式Facebookより、アゴラ編集部)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。