ウソをつく適性検査!

尾藤 克之

講演中の筆者。於:横浜市開港記念会館。

採用シーズンになると様々な趣向を凝らした適性検査がお目見えします。しかし、なかには疑わしいものが少なくありません。バーナム効果という心理学用語があります。これは誰にでも当てはまるような質問にも関わらず、自分だけに当てはまると錯覚してしまう現象です。

●誰にでも当てはまることがポイント

米国心理学者のフォアは1948年に、学生に心理学検査を実施しました(The fallacy of personal validation: A classroom demonstration of gullibility)。多項選択回答形式で、自分に最も当てはまらないものを「0」、最も当てはまるものを「5」の6段階で回答したものです。この検査の平均点は4.26点で非常に高い得点であることが明らかになっています。

質問内容は以下のようなもので自分のことについて回答するものでした。
Q1.あなたは他人から好かれたいと思っています。
Q2.あなたは発揮されていない才能を持っています。
Q3.あなたは稀に行動したあと悩むことがあります。
誰もが「最も当てはまる」と回答しても不思議ではない質問です。

良く知られている血液型占いにも同じようなことが言えます。
・A型は几帳面で神経質。
・B型は自己中心的でわがまま。
・O型は人づき合いが上手。
・AB型はプライドが高く二面性がある。

ポイントは全て誰にでも当てはまることです。フォアの実験に参加した学生に「あなたは他人から好かれたいと思っていますね。まだ発揮されていない才能があるようです。たまに、行動したあとに悩むこともありますね。どうですか!当っていますか?」と聞かれて「NO」と答える人はいないはずです。

血液型占いでも同様のことがいえます。「あなたには几帳面で神経質な面があります。自己中心的でわがままな面もありますが人づき合いは上手です。プライドが高く二面性の部分もありますね。どうですか!当っていますか?」と聞かれて、こちらも「NO」と答える人はいないでしょう。

この手法を真似ているのが、情報商材に見られるワーディングやコピーです。これも誰にでも当てはまることがポイントです。
・現状に満足している人は読まないで下さい!
・片手間に毎月100万円を稼ぎたいと思いませんか!
・努力をせずに簡単に10キロ痩せる方法があります!

現状に満足をしている人は少ないでしょうし、片手間に100万円稼げる方法があれば知りたいと思いますし、努力をせずに簡単に10キロ痩せる方法があれば試したいと思う人は多いはずです。

●検査結果は実地に照射すべきである

信頼性・妥当性とは検査が正しいか、安定的に正確な結果が得られるかを表わす指標です。適性検査を開発した会社は、信頼性・妥当性についてデータや検証結果を公表する必要性があります。

適性検査の妥当性を検証するには、追跡調査が最も分かり易いでしょう。入社後の、人事評価と照らし合わせれば一目瞭然です。1年後、2年後と定期的に調査をおこない、高得点者のパフォーマンスが高いという結果が導き出されたら「適性検査の妥当性は高い」と判断できます。

社内の人事評価を元に比較する方法もあります。例えば、社内の人事評価上位30%と下位30%に適性検査を実施して比較する方法です。適性検査の妥当性が高いのなら、人事評価が上位のほうが高得点になるはずです。ところが人事部は早い頻度で適性検査を入れ替えるので実際の紐付けは困難になります。

適性検査は人の属人性を測定したり人格を規定するものではありません。またどんなに優れた検査であっても精度の限界が生じるものです。しかし、適性検査は毎年、多くの企業で活用され誤った利用方法で学生を振るいにかけています。採用に限らず、疑わしい診断が溢れていることに問題があるわけですが。

尾藤克之
経営コンサルタント