「ブッシュ撤退後」を制するのは? --- 安田 佐和子


サウスカロライナ州での予備選で不動産王ドナルド・トランプ候補がトップを確保し、アウトサイダーが制する気配が漂ってきたように見えます。白人高卒者の支持も厚く、キッド・ロックなどセレブリティの支持もあれば、怖いもの無し?フェイスブックのいいね数が他候補と桁違いであり、支持は盤石といった風格すら漂います。

しかし、一人の候補者が米大統領選から撤退したため新たな変化が訪れる可能性も否定できません。ジェブ・ブッシュ候補撤退後の同氏への票は、どこへ行くのでしょうか?

注目は、若手の2人—テッド・クルーズ候補(テキサス州選出、米上院議員)とマルコ・ルビオ候補(フロリダ州選出、米上院議員)です。以下、2人の選挙資金動向、支持層を分析してみました。

2013年9月24日午後2時41分、テッド・クルーズ米上院議員は医療保険制度改革いわゆるオバマケアを盛り込んだ暫定予算案議を阻止するため、フィリバスター(議事妨害)に挑んだ。21時間19分に及び大演説を振るったクルーズ氏を鼻白む主流派をよそに、一つ年下のルビオ議員は数少ない支持者だった。あれから2年が過ぎ、同じキューバ系の血を引く2人は大統領選で対峙する。

2人のうち頭一つ抜きん出ているのは、クルーズ候補だ。TPP阻止や不法移民の流入防止など超保守的な政策が支持されアイオワ州で首位を飾り、ニューハンプシャー州でも3位と善戦した。支持層は、主にテキサス州のメインストリートつまり実業界や一般世帯だ。シェール産業で財を成し中絶反対派をまとめるウィルクス兄弟やエネルギー関連投資で知られるトビー・ニューゲンバウアー氏は、特別政治行動委員会(スーパーPAC)を含めそれぞれ1000万ドル以上も寄付してきた。メインストリートの富豪だけでなく、庶民からの支持も厚い。200ドル以下の寄付者が全体の60.3%を占め、ルビオ候補の26.7%を大きく上回る。

ルビオ候補はと言えば、ブルーステーツがひしめく東海岸を網羅してきた。金額の内訳では2000ドル以上が53.7%を占める通り、クルーズ候補に対し支持層はウォールストリート陣営の顔ぶれが確認できる。ヘッジファンド業界の有力者で資産66億ドルのケン・グリフィン氏、資産21億ドルのポール・シンガー氏は、それぞれ250万ドルずつ同候補のスーパーPACに寄付した。おかげでルビオ陣営は2015年10-12月期、主流派ブッシュ候補の約2倍に相当する約1400万ドルを集めたものだ。

予備選を勝ち抜くための生命線である選挙資金動向では、クルーズ候補の手持ち現金が2015年12月末までで約1870万ドルと共和党候補内でトップに立つ。ルビオ候補といえば、約1040万ドルで2位に甘んじていた。

というわけで、選挙資金動向はこちら。


(作成:FEC、OpenSecretsよりMy Big Apple NY)

——以上の点を踏まえれば、いかにブッシュ候補の撤退の余波が今後を左右するかが読み取れます。スーパーPACを含め6620万ドルもの資金を有したことのあるブッシュ候補の脱落により、比較的主流派とされるルビオ候補へ支持が一本化すればトランプ候補の独走に歯止めが掛かるというもの。特にサウスカロライナ州の結果が現す通りトランプ候補の支持率が35%付近で頭打ちとあれば、勝算なしとは言い切れません。何よりルビオ候補は代議員数が95人のニューヨークをはじめとした東海岸のほか、172人のカリフォルニア州など大票田を網羅している点で安定感が高い。共和党大統領予備選の第2幕はメインストリートVSウォールストリートの戦いとして、まだ開いたばかりではないでしょうか。

(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年2月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。