IoT/AI時代の放送って? --- 中村 伊知哉

さきごろ、民放連の研究会でプレゼンしてまいりました。その概要をレポートします。

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スライド1この20年間、放送は、デジタル化と通信融合との2大潮流の中にありました。いずれもアメリカからの黒船とみなされました。ただ、地デジの整備とネット配信の本格化で、その大勢は決しました。

5年ほど前からは、「スマートテレビ」の波がGoogleやAppleから押し寄せ、新たな黒船と目されました。テレビとスマホの連携、ネットとの連動、ソーシャルメディアとの協働が世界的に広がりました。Netflix上陸で、ビジネス的にはまだ流動があり得ますが、方向は既に見えていた事態です。

一方、昨年あたりから、ITの分野は「脱」スマートといっていい動きに彩られています。スマートの次の世界に向けて動いています。ポイントは3つ。1) ウェアラブル、2) IoTーユビキタス、3) インテリジェントー人工知能。

言い換えると、1) いつも、 2) なんでも、 3) かしこい。

いずれも技術的には15年前にできていましたが、高度化・低廉化して普及期に入り、急速に実用化が進もうとしているものです。

これが放送にも押し寄せます。無論まだ実像は定まらない空想の領域です。でも、デジタル放送や通信・放送融合がそうであったように、これも5~10年たてば大波になっているかも。どういう影響があるのか、それを考える段階です。

それぞれどういう意味を持つでしょう。1) ウェアラブルはインタフェースの拡張、2)IoTは受信機の多様化、3) AIは放送の自律化、
ととらえられます。
 
そして、いずれも、ダウンロードとアップロード、つまり、放送の受信と、視聴者から局への送信との両面に関わるものです。

1) ウェアラブル

CEATEC等の展示会では、めがね型ディスプレイが満載です。グーグル・グラスは芳しくないと聞きますが、多くのメーカから各種提案が見られます。

例えばエプソンの “MOVERIO”は、宅内のWi-Fi環境と接続して、録画してある番組やBlu-rayソフトを寝ながら大画面で視聴するスタイルを提示。外出先からテレビをリアルタイム視聴することも提案しています。

あるいはウェアラブルの「常時性」を活かして、「いつでも」好きな時にではなく、「いつも」ずっと見ているサービスが提示されるかもしれません。

いえ、ウェアラブルの主力はメガネより時計かも。メガネはダウンロード=受信用ですが、時計は視聴覚データの受信だけではなく、時計から発信する動作情報、触覚情報、脈拍、発汗など視聴覚以外の身体データが注目されます。つまりアップロード=送信としてのウェアラブルです。
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北海道テレビが以前CEATECで展示したハイブリッドキャストのトライアル。手首の時計で脈拍を計測して画面に表示します。番組の女子アナの脈拍も表示されて、二人の脈拍がシンクロされます。番組を見ているドキドキ感を共有するというのです。実に日本的。海外ではみられない、ゆる~いウェアラブル・テレビ。

2) IoT-ユビキタス

全ての家電がつながってコミュニケーションする。冷蔵庫、エアコン、掃除機、全てがつながることで、テレビの位置づけも変わるかもしれません。その前に、クルマがスマホになります。クルマ各社がITに本腰を入れています。まずカーナビへの情報提供から、そして操縦のコントロールに広がるでしょう。

TFMグループが進めるV-lowマルチメディア放送は、放送の電波で、テレビ以外のメディアに通信的なサービスを提供します。車載端末向けの専用情報サービスも企画しています。いずれ自動走行が実現します。クルマの走行を管理するためのベーシックな情報やデータは、放送として、クルマというモノに発信することになるのでは。
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ロボットが放送の電波を受けて、踊ったり芝居をしたりする番組だってできます。15年前、MITでは、電波でレゴのロボットを動かす実験をしていました。技術的には簡単です。3Dプリンターで、データでモノをアウトプットできるということは、放送番組としてモノを伝送できる、ということにもなります。

一方、アップロードも考えてみましょう。御嶽山の噴火も、阿蘇山の噴火も、登山客が撮った映像やtwitterにのっていた写真が放送で活躍しました。ぼくがケータイとビデオカメラで「1億人の歩くテレビ局」ができるというシャープのCMを企画したのは2000年のこと。それはとうに実現しました。
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いや、もはや人が撮るものだけではありません。街中に埋め込まれたカメラがコンテンツを作ります。事件が起きた時、防犯カメラの映像が役に立ちます。先ごろの警察官による殺人事件は、インタフォンに映っていた映像が決め手になりました。いつもデジタルで監視されていることは、かつては不安材料であったのですが、今は安心・安全のもとにもなっています。

あちこちに埋め込まれたカメラやセンサーがアップする情報、ビッグデータが映像のコンテンツ、映像サービスのデータ、素材として流入してきます。
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ドローンは小型・軽量化、低廉化は進み、誰もが気軽に使うようになります。東京おもちゃショーの大賞を受賞した超小型カメラ付きドローン「ナノファルコンデジカム」。欲しいです。

昨年のInteropでは、TBSが4Kドローンを展示していました。空中からドローンで撮影しアップロードする時代です。

しかし、ドローンは事件もいろいろ起こし、肩身が狭い。東京MXテレビがイギリス大使館にドローンを墜落させるという件もありました。

今年のInterop、TBSはドローンをやめて、スマホ中継セットを展示していました。「ドローンは時節柄、手控えた」とのこと。いやいやいや。もったいない。どんどん使いましょう。

3) インテリジェントー人工知能

賢くなります。ソフトバンクPepperの対話プログラムは、KMDの卒業生が吉本興業で作っております。勝手にロボットがコンテンツを作り出す仕組み。技術的には15年ほど前に期待が高まったエージェントやアグリゲーターがいよいよ活躍するでしょう。

バーチャル・エージェントがAIで賢くなり、全て自分の行動を代行してくれるようになります。ぼくより賢いぼくの代理人がネットで活躍します。ぼくが見るべき、知るべき情報をエージェントが全部選抜してくれます。 
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金融市場ではヘッジファンド等が金融工学を駆使したAIロボットが導入され、取引全体の7割をボットが行っているといいます。デロイト社は、英国の仕事の35%が今後20年でロボットに置き換えられる可能性を指摘し、オックスフォード大は今後20年位内に米国の職業の半分が失われる可能性を指摘しています。

政府・知財計画2015は、「人工知能技術の発展により、人間に替わって機械が著作物を生み出す場合も生じつつあるなど、帰属が曖昧な著作物がインターネット上を漂う時代、また、3Dプリンティングの発展により、情報とモノの区別が曖昧になる時代も近づいている。・・今後検討を進めていくことが必要である。」と記述しています。今回の計画で最も重要な部分だと考えます。

1) ウェアラブルはインタフェースの拡張、2)IoTは受信機の多様化、3) AIは放送の自律化。ウェアラブルは、メガネに情報を送り、脈をテレビ局に送ります。IoTは、クルマが受信し、ドローンが発信します。AIは、番組を選び、機械がコンテンツを作ります。

そんな世界。どう受け止めましょう。受動ではなく、能動で攻めないと、過去20年の繰り返しになります。
 
ぼくらはCiPという特区で、次の時代を拓くプロジェクトを組み立てます。電波、著作権、ロボット、サイネージなど、特区を活かした開発プロジェクトを進めます。IoT/AI時代の放送のテストベッドも用意したい。

放送業界のみなさま、ぜひご利用ください。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。