日経新聞によると2015年の不動産向け融資は26年ぶりの記録となる10.6兆円だったそうです。26年前のピークが1989年の10.4兆円だったそうですからその当時から不動産事業にどっぷり浸かってきた者にとって懐かしさと共に「違い」も感じています。それは不動産価格の上昇であります。当時は毎週価格が上がったのに今は一部地域を除き「買った瞬間から下がり始めると思え」とも言われています。まるで自動車の価値と同じですがこの世界、何か違和感を感じないわけにはいきません。
日本は戦後、持ち家率を高めるため、様々な政策を施してきました。その結果、78年には59.9%とほぼ、率としては先進国並の裕福な水準に達しました。持ち家比率は持てない人、賃貸を好む人など様々な理由により主要国は大体60%台を維持するようになっています。日本も88年の持ち家率が61.1%で2013年が61.6%とほとんど変わらないのは既にこの比率は頭打ちの状態になっているということであります。
日本の住宅の真の実需がどれくらいか類推してみます。2000年と2014年で世帯数はざっくり4550万世帯から5050万世帯に増えています。つまり、500万世帯増ですからこの6割が持ち家をすると計算すれば14年で300万戸、つまり年間では20万戸強しか新規需要はありません。残りは買い替え需要であり、それが結局空き家を生み出すことに繋がってしまうのです。
これが何を意味するかといえば住宅は自動車と同様、使い切って終わり、という償却対象資産となり、諸外国の様に値上がり資産とならないのであります。では80年代は同じような条件なのになぜ不動産が値上がりし、今は上がらないのか、ですが、一つには80年代は古い家を破壊して新しいものを作り続けた為、住宅供給数のマイナス分があったのですが、今はスクラップアンドビルトの時代ではないので古い家がそのまま残り続けてしまったということが考えられます。
ここから考えれば今は銀行が不動産融資を膨らませていますが、将来性は明るくない、と考えらえるかもしれません。もう一つ、リスク含みなのはバブルの崩壊を不動産事業を通じて肌身をもって体験した人間としては日銀の金融政策や政府の住宅政策が一歩間違えばドロドロになることもあるということでしょうか?当時は総量規制、短期売買規制、更に鬼の三重野日銀総裁の舵取りなどが引き金となり、未曽有の不況を引き起こしたわけですが、見方を変えればその前に不動産向け融資が今のように緩々な状態になっていた政策があったことが本質的な問題点であったわけです。
今、日銀は不動産REITをしっかり購入していますが、これは不動産会社による供給促進させる絶好のチャンスとなります。REITは上述の住宅よりも商業不動産が主流ですが、今後はホテルなどの需要も高まってくるはずです。事実、アメリカのホテルチェーン、スターウッドは日本で3年以内に5割増やす(=9軒程度)と発表しています。
これらがうまくワークしているうちは大丈夫ですが、訪日外国人の増加がそれらの引き金となってるならばそれは危険でしょう。為替が円高に振れれば訪日外国人はスーッと減少します。ブームは数年で沈静化することも多く、今年あたりからはやや逆風とならないとも限りません。
住宅が償却資産であるならば相続税対策で高価な不動産を買う節税シナリオは短期的効果はあっても実際には税の繰り延べのような効果しか発生しないような気もします。時間がある人がこんな計算でもしたら、世の中あれーっとびっくりするような結果が出るかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月24日付より