先物の現物決済に関するオプションの研究というオタクな世界

森本 紀行

第一次産品の生産者は、生産原価の変動に比して、販売価格の変動は遥かに大きいのだから、常時、販売価格が原価を下回る危険に晒されている。故に、先に売っておいて、利益を確定してから、生産したいという要請は非常に強い。第一次産品を中心にした商品に、先物市場がある理由だ。


こうした商品先物の機能からして、先物市場は実物市場とつながっていなければならない。具体的には、先物を実物で決済できなくてはならないのである。さて、実物での決済が可能であるためには、対象が均等均質で標準化されている必要がある。一番わかりやすいのが金であって、金の純度を厳格に規定しておけば、金は一つしかないから、金の先物市場を作ることは、容易なのである。

しかし、普通の商品は、そう簡単にはいかない。例えば、小豆にも先物があるのだが、小豆には品種や品質の差があって、厳密には、均質均等の小豆は想定し得ない。それでも先物市場がなりたつのは、取引対象としての小豆の品種や等級を定めておくことで、実務上は、大きな不都合が生じないようにしているからである。これは、他の商品についても同じだ。

ただし、金以外については、全く同一の商品など存在し得ない以上、どこまでも、誤差は残る。この問題については、若かりし頃の懐かしい思い出がある。それは、1980年代の後半であったと記憶するが、米国のどこか(シンガポールかもしれません)で開かれた金融理論の学会にでたとき、どこかの先生が発表したシカゴの商品先物取引に関する研究である。

シカゴの大豆の先物において、制度的に適格な品種と等級はいくつかに制限されているのだが、その範囲のなかでならば、どの品種と等級のもので実物決済するかは、先物の売り手が決めていいのである。当然だが、一番安いものを選択することは、売り手の利益になる。ということは、この売り手のもつ選択権は、経済的価値をもつことになるわけだ。

研究は、この選択権(オプション)の経済的価値に関するものであって、そのオプションの理論的価値を数学的に算出したものであった。なるほどね、と非常に感心したのと、なんとオタクな、と非常に驚いたのと、そのときの記憶は、今も鮮明である。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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