消費税10%の先送りは「国営ネズミ講」


年初からの景気悪化で、来年4月に予定されている消費税率の10%への引き上げ延期が政治的な話題になってきた。安倍首相は「リーマンショックのような非常事態がない限り延期しない」というが、菅官房長官は26日の記者会見で「税率を上げて税収が上がらなければ、消費税率を引き上げることはありえない」とのべた。安倍政権が延期を決め、それを争点に解散・総選挙に打って出る戦術も有力になってきた。


図1 減税(所得税・法人税)の影響(出所:経済財政白書)

官房長官が「橋本政権が消費税率を上げた結果、税収が減った」といっているのは誤りだ。税収が減ったのは同時に所得税減税が行なわれたためで、もし所得税と法人税を減税しなければ、図の点線のように、税収は2000年ごろには1997年を上回っていた。

またVlogでも説明したように、2014年4月の消費増税のあと個人消費が減ったのは、3月に駆け込み需要が1割以上ふえた反動であり、14年末までの個人消費は前年を上回った。


図2 家計の実収入と可処分所得(右軸)出所:厚生労働省(年額・万円)

消費不況の原因は、賃金が下がる上に手取りの所得が減っていることだ。図2は家計の実収入と可処分所得(所得税・社会保険料を引いた所得)の推移をみたものだが、この15年で家計負担(実所得-可処分所得)が104万円から116万円にほぼ1割増えている。この時期に所得税は下がっているので、このほとんどは社会保険料の増加だ。

名目所得を下げた最大の原因は、消費税ではなく社会保険料の増加であり、実質所得を下げたのはアベノミクスのインフレ政策である。この状況で消費増税を先送りすると、ますます社会保険料の負担は大きくなって可処分所得は減り、個人消費は減るだろう。

だから選挙めあてに増税延期を繰り返し、増発される国債を日銀がファイナンスするのは、タコが自分の足を食っているようなものだ。足を食い尽くしたとき、税・社会保険料の負担は将来世帯の所得の半分を超えるが、そのころには増税を先送りした政治家は死んでいる。

民主主義の原則は代表なければ課税なしだが、代表を出せない将来世代は負担の押しつけを拒否できない。「民主主義を守れ」などと安保反対デモをしている学生は、自分の将来にネズミ講の莫大なツケが回ってくることを知っているだろうか。