アカデミー直前特集!あなたの知らない今年の裏事情 --- 安田 佐和子


第88回アカデミー賞、現地時間の28日に幕を開けます。

賞レース発表時から話題になったのは、主要部門候補者が全員白人だったという事実。ソーシャルメディアでは、#OscarsSoWhiteのハッシュタグで問題視されています。昨年はキング牧師の公民権運動闘争を描いた「セルマ」が作品賞と主題歌賞でノミネートされ、後者で受賞しましたが・・。おかげで、俳優ウィル・スミス、スパイク・リー監督など、こぞってボイコットを表明済みです。その舞台の司会者が、黒人コメディアンというクリス・ロックという皮肉。彼は今回で2回目の司会を務めますが、どのようなブラック・ジョークでこの問題を料理してくれるのでしょうか?

今年、白人以外の主演・助演・監督絡みで下馬評に挙がった作品としてはまずラップ界に新風を巻き起こした伝説のグループN.W.A(アップルが買収したヘッドフォン・メーカーのbeats創業者ドクター・ドレー、俳優に転身したアイスキューブなどが所属)を扱った「ストレート・アウタ・コンプトン(Straight Outta Compton)」が挙げられます。ただ個人的に申し上げて、平均年齢63歳、白人が93%、男性が76%というアカデミー会員のお眼鏡に適わなかったでしょうね。それでもウィル・スミスが主演しNFLの脳震盪をテーマにした「Concussion」、名先ロッキー・シリーズ最新作「クリード チャンプを継ぐ男達(Creed)」でアポロの息子役を演じたマイケル・B・ジョーダンなど、ノミネートされる価値はあったことでしょう。

日本人としては、西アフリカの少年兵に迫った「ビースト・オブ・ノー・ネーション(Beasts of No Nation)」を挙げたい。今作品の監督はアメリカで問題作として世間を賑わせたドラマ「トゥルー・ディテクティブ(True Detective)」の監督であるキャリー・ジョージ・フクナガがメガホンを取っています。彼の父親は日系3世で、第二次世界大戦時の日系人強制収容所で誕生しました。父の影響があったのか、彼の作品は現代の闇をえぐり出すような作風が多いんですよね。この作品にはその他、イギリス人俳優で黒人初のジェームズ・ボンドの呼び声が高かったイドリス・エルバが今作でゴールデン・グローブ助演男優賞にノミネートされました。ところが全米俳優映画組合賞(SAG)では見事受賞したものの、アカデミーでの候補はゼロです。

キャリー・フクナガ氏、母親はスウェーデン系。

(出所:Dick Thomas Johnson/Flickr)

栄えあるアカデミー賞候補にノミネートされた作品にも、知られざる事実があります。

マット・デイモン主演「オデッセイ(Martian)」は、今年の作品賞候補作品で最も稼ぎました。21世紀フォックスとしても笑いが止まらない同作品は制作費が1億800万ドルのところ、1月時点での全世界で5億9700万ドルを叩き出しました。その他費用も合わせ1億6100万ドル(約185億円)もの黒字を計上し、興行的にも大成功しています。

反対に、最多の12部門ノミネートで話題の「レヴェナント 蘇えりし者」。こちらは制作費1億3500万ドルのところ、興行成績は3億8200万ドルでした。広告費なども含めると1100万ドルの赤字(約1億2500万円)だといいます。

アカデミー賞での知りたくない事実として、ロビー活動費が挙げられるでしょう。ウォレット・ハブによると、小規模な制作会社でも300万ドル、メジャーな制作会社なら10万ドルという大金が動きます。

スターの入場を彩るレッドカーペットのお値段はというと、3万ドル(約340万円)。1万6500平方フィート(1533平方m)であれば、妥当なお値段でしょうか?

【追記】
アカデミー賞にノミネートされた俳優・女優・監督陣の25名は、候補として名を連ねる栄誉に浴すだけではありません。候補者には総額23万2000ドル(約2640万円)のギフトバッグが贈呈されます。その中には、イスラエルのほか”The Walk Japan Tour”と題した総額5万4000ドル(約615万円)の豪華旅行が含まれているんですね。

アカデミー賞が開催されるハリウッドの経済効果も、気になりますよね?ロサンジェルスに転がり込む金額は、たった1日で、1億3000万ドル(約150億円)也。約1週間にわたり2年開催されるNYのファッション・ウィーク、1日分に相当するほどなんですね。ただし、NYシティ・マラソンには程遠い。煌めくスターの祭典とはいえ、世界から参加者が集うマラソンの聖地には勝てませんでした。

(カバー写真:Kevo Thomson/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年2月27日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。