【映画評】ヘイトフル・エイト

渡 まち子
「ヘイトフル・エイト」オリジナル・サウンドトラック

南北戦争から数年が経ったアメリカ中北部のワイオミング。賞金稼ぎのマーキス・ウォーレンは折からの大雪で馬を失い、駅馬車に同乗する。その中には同じく賞金稼ぎのルースと、彼が捕まえた重罪犯の女ドメルグがいた。途中、元略奪団のリーダーで新任保安官のマニックスを拾い、猛吹雪から避難するため山小屋であるミニーの雑貨店へ。そこには、メキシコ人の店番ボブや怪しげな絞首刑執行人オズワルドら4人のいわくありげな男たちがいた。偶然集まったはずの8人だが、その過去は複雑に絡まっている。やがて密室と化した山小屋で殺人事件が起こるが…。

密室劇「ヘイトフル・エイト」は、ワケありの男女8人が騙しあうミステリー・アクションだ。ジャンルは「ジャンゴ」に続いてタランティーノが偏愛する西部劇である。チャプター(章)仕立てや、後半になって突如時間を遡る演出、マシンガン・トークに流血のバイオレンスと、見慣れたタランティーノ印の映画に仕上がっている。だが本作が今までと違うのは密室殺人事件というミステリー仕立てのスタイルをとっていることだ、映画は冒頭から巧妙な伏線がはられている。特に前半のせりふは一見物語に無関係に思えるが、後半にジワジワと効いてくるから要注意だ。

出演者はおなじみのクセモノ役者が揃うが、今回タランティーノ映画初出演となるジェニファー・ジェイソン・リーの存在感が半端なく素晴らしい。破壊力抜群で、急展開するストーリーの中心軸となっていくのは見事だった。音楽は巨匠エンニオ・モリコーネが担当。70ミリフィルムの「ウルトラ・パナビジョン70」で撮影(日本では残念ながら普通サイズで上映)するなど、随所に強いこだわりが感じられる。欲を言えば、上映時間165分はやや冗長に感じることか。もう少し潔い編集がほしかったところだ。しかしこの長さには理由がある。ストーリーの詳細は映画を見てもらうとして、この物語には“秘密の9人目の人物”がいる。若手のビッグネームが演じるこの人物が突如登場し、物語に爆弾を落とすから、これだけの時間が必要なのだ。セリフで圧倒しセリフで魅せる本作、身も凍る猛吹雪の中でのドラマだが、まるで舞台劇のような熱っぽさだった。
【80点】
(原題「THE HATEFUL EIGHT」)
(アメリカ/クエンティン・タランティーノ監督/サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、他)
(バイオレンス度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。