【映画評】ザ・ブリザード

渡 まち子

1952年、アメリカ、マサチューセッツ州ケープコッド沖。史上最大級のブリザードに遭遇した巨大タンカーが、船体が真っ二つになって遭難する。沿岸警備隊チャタム局の4人の隊員たちは、新任司令官の命令で、小型救助艇で、取り残された乗組員の救出へ向かう。隊員のバーニーは、以前、救助に失敗し8人の命を失ったことを悔やみ、「もう誰も死なせはしない」と決心していた。だが残された時間は数時間。荒れ狂う海で命綱であるコンパスを失った救助艇は、史上最も不可能な救出ミッションに挑もうとしていた…。

アメリカ沿岸警備隊史上最も困難とされた海難事故“SSペンドルトン号の救出劇”を、実話をもとに描いた海洋パニック・アクション「ザ・ブリザード」。沈没する巨大タンカーの乗組員と、救出に向かう沿岸警備隊の、両方のドラマを同時進行で描いていく。それにしても、これほどの嵐の中、遭難した32名を救うのに、乗り込むのは木製のオンボロ小型船、最初からほとんど救助のための設備もなく、そもそもマサチューセッツ州沖の危険な砂州チャタム・バーを超えるという難題付のミッションとは。設定として、ムチャぶりもはなはだしいと言いたいが、実話なのだから、しかたがない。内向的でトラウマ持ちだが正義感が強い沿岸警備隊のバーニーのドラマはやや物足りないが、奇想天外な策でサバイバルを繰り広げる一等機関士シーバードが率いる、救助を待つタンカー内のドラマはなかなかユニークだ。身も心も凍てついてしまいそうなこの映画、冬に見るには少々ツラいが、現状を冷静に判断した上で、最大限の勇気で圧倒的な自然に立ち向かった男たちのドラマは、この上なく熱い。映画のラストに、実在した人々の写真が紹介され、さらなる感動を誘う。
【70点】
(原題「THE FINEST HOURS」)
(アメリカ/クレイグ・ギレスピー監督/クリス・パイン、エリック・バナ、ケイシー・アフレック、他)
(ムチャ度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。