課題を残したG20

27日に閉幕したG20の主要テーマは「世界通貨安戦争の阻止」。経済成長が思わしくないばかりか一部では深刻な事態も生じている世界経済において再浮上する一つのキーは通貨の安定であります。各国の産業が為替動向に振り回されることなく本業に集中できればこれはベストであります。

ところが市場による為替レートの決定は自国と他国との力関係を表すものでそれが経済力だけに留まらないところに問題があります。ましてやマイナス金利などかつての経済原則を飛び越えた状態が生じる中で為替の安定を図るという一致団結した対策はほぼ不可能であります。G20でも結局、各国にその対策はゆだねられ、実質的に精神論の討議で終わった気がします。

やり玉に挙がったのは中国の元安政策と言われますが、裏では日本の政策にも批判があったとされています。特に黒田総裁の「サプライズ型」の政策は時代の主流ではなく、市場に激震を起こし、悪影響すらあると見る人もいます。会議後のインタビューでユーロ圏のデイセルブルム議長が「円を対ドルで押し下げて債券利回りを歴史的な低水準に引き下げた日銀による前例のない金融刺激策に対する懸念の高まりを示唆するものだ。日銀が先月、マイナス金利導入の決定を発表したことで、市場は不意を突かれ、通貨のボラティリティ(変動性)が高まった」(ブルームバーグ)とあり日経とはややトーンが違います。

各国通貨安を望んでいる中で一番それを欲しているのは実はアメリカではないか、という気がいたします。最近のアメリカの一部専門家からはドル高が経済全般に及ぼす影響という意見が大きくなっています。また、大統領選挙において各候補者がかなりユニークな政策を掲げて「気を引こう」とする傾向がより強まっていることも事実です。これは「変革」を主張しないと選挙に勝てない前提があるのですが、もともとはオバマ政権に対する批判でした。が、トランプ旋風が吹き荒れる中で「中道」ではダメでエキストリームな政策こそが生き残る道という傾向がより強まってきます。ドルが高すぎるという声もその一環かと思います。 

その中でクルーズ候補が氏の主張、「金本位政策復帰」案を再び強調し始めています。英語でGold Standard、今さら何を、と思う方が多いと思います。(というより多くの人は金本位など知りもしないでしょう。)これを今再導入するといえば経済学者は猛反対するでしょう。私も昔の金本位体制は無理が生じると思います。が、クルーズ氏のポイントは基軸通貨に対する疑念であり、ルビオ氏と共に共闘する「FRBはウォール街の為にある」というボイスがその背景だろうと思います。

金本位制の最大の特徴は先日も書いたようにどの国にも同じ輝きを提供するということであります。一方で生産量が限られていることから金とリンクさせると恐慌が起きた時に通貨を発行せることが出来なくなります。これを解決する為に政府紙幣を発行することで対応が出来なくはありません。政府紙幣は返済期限がなく、金利もつかず政府の負債にもならないメリットがあります。

政府紙幣は日本でも現在に至るまで何度も議論されており、正直、デフレ解消にはもっとも効果がある手段の一つだと思いますが、劇薬であり、急激なインフレと円安を引き起こす可能性が指摘されています。

個人的には現在の通貨の在り方は歪があり過ぎ、本質的な問題解決は出来ない気がいたします。それはドルがあたかも太陽で他通貨がきちんと公転する限りにおいてワークしていたのです。ところが、ユーロからの新たなる引力、更にリーマンショック後の主要中央銀行による金融緩和はさしずめ、巨星へと膨張化するようなもので制御不能に近くなってきたように思えます。ちなみに宇宙では膨張のあと、ブラックホールとなりますね。

各国の通貨当局が自国の我儘ではなく、地球儀ベースでモノを考え、ワールドスタンダードを作ることを考え始めるべきでしょう。ゴールドもスタンダードの一つですが、そんな昔のアイディアをそのまま使うのは現代社会では進歩がないと言われると思います。今回のG20はある意味、大きな課題を残したとも言えそうです。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月29日付より