日本の外に目をやると、世界中で女性のリーダーが活躍している。ドイツのメルケル首相をはじめ、ブラジルのジルマ・ルセフ大統領、韓国の朴槿恵大統領。ミャンマーのアウンサー・スー・チーさんも、大統領ではないが、実質、国のリーダーといっていいだろう。さかのぼれば、イギリスのサッチャー首相もすばらしいリーダーだった。対して、日本では政治の世界でも、企業でも、女性のリーダーや管理職は欧米諸国に比べて圧倒的に少ない。
前回の「朝まで生テレビ!」は、「“女性が輝く社会”とは?!」をテーマに、徹底討論した。パネリストはもちろん全員、女性の論客だけだった。
この「女性が輝く社会」とは、安倍晋三首相の言葉だ。だが、討論のなかでの荻原博子さんの「女性が輝く社会に違和感がある」という意見に僕はハッとさせられた。労働人口が足りなくなっている、だから女性や高齢者といった「安い労働を使えばいい」という本音が透けて見えるというのだ。
なるほど、僕もこの意見には反論できなかった。たしかに政府の方針を聞いていても、これから日本は「労働力不足」になる、だから「高齢者も女性も働いてくれ」という安易な思考回路が見てとれる。そうではないのだ。女性のリーダーが当然のように活躍できる社会が、先進国としての真っ当な姿なのだ。
また、パネリストのひとり、前滋賀県知事の嘉田由紀子さんは、議会や企業に一定の割合の女性を入れることを定める「クオータ制」の導入を提言した。この「クオータ制」は、安倍政権でも議論されているようだ。
これまでさまざまな方に僕は取材してきた。そこで出てきた意見に、そもそも「女性の労働問題は、男性の労働問題なのだ」というものがある。
子育てが始まると、多くの女性が離職する。子どもがいないときと同様の働き方ができなくなってしまうからだ。託児所に迎えに行くために早退しなければならない。子どもが熱を出せば、会社を休まなければならない。
しかし、むしろ、そんな働き方が普通とされる現状にこそ問題があるのではないか、と僕は思う。サービス残業は日常茶飯事、残業がない日でも、上司や同僚と飲んで、帰宅が遅くなる。先進国の企業では、まず見られない、かなり非常識な働き方である。さらに首都圏では、満員電車での長時間通勤は当たり前だ。
これは男性にとっても、相当つらい社会ではないのか。最近、40代男性会社員のウツが非常に増えている、とパネリストの荻原博子さんはいうが、それも当然ではないかと思う。
女性の就業率のグラフは、日本ではM字型になる。子育てのあいだ、一時的に離職するからだ。この「M字曲線」などという言葉も、日本だけにあるものだ。僕自身、妻に育児や子育てをすべて任せていたクチだから、偉そうなことはいえない。けれど、やはりこれからの社会は、こんな働き方を変えていかなければならないだろう、と思う。
「ワークライフバランス」という言葉を僕が初めて聞いたのは、何年前のことだったろうか。女性にとっても男性にとっても、働きやすい社会の実現のためには、待機児童の問題など、解決しなければならないことがたくさんある。これらの課題に取り組む要になるのが、「男女共同参画」を担当する大臣だ。ところが、「たらい回し」の対象にされている、もっとも軽い大臣ポストのひとつだともいわれている。責任者がころころ変わっていては、まともな対策など打てるはずがない。安倍内閣は、まず、この問題にじっくりと取り組む体制を作り、具体的な成果をこつこつと着実に出していくべきだ。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年2月29日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。