オーストリア国民は武装する --- 長谷川 良

アゴラ

オーストリアでは先月1日現在、26万9172人が武器を所有し、ほぼ100万丁の武器(92万8095丁)が正式に登録されている。治安関係者は、「実際はその倍以上の武器が保持されているとみるべきだ」と指摘する。すなわち、約200万丁というわけだ。参考までに、2014年7月段階で登録された武器数は83万6953丁だった。それが15年7月段階で3万4338丁増加している。ちなみに、州別にみると、二―ダーエステライヒ州がトップで武器数25万7572丁、所持者数6万9817人だ。

興味深い点は、オーストリアで武器だけではなく、携帯警報機やPfefferspray(唐辛子スプレー)を購入する国民が増えてきている。なぜオーストリア国民はここにきて武装化するのだろうか。

同国内務省が公表する犯罪総件数は年々減少傾向にある。オーストリア内務省が発表した2014年度犯罪統計によると、犯罪総件数は52万7692件で前年比で3.4%減を記録した(2005年:60万4000件、13年:54万6000件)。15年の犯罪統計がまだなので断言はできないが、統計を観る限りでは治安は安定してきている。しかし、国民の安全に対する体感は統計とは明らかに異なってきているわけだ。

それでは、なぜ国民はここにきて武器を求めるのだろうか。考えられる理由の一つは難民・移民の急増だろう。同国では昨年約9万人の難民が流入した。今年に入っても難民の殺到は続いている。難民・移民を含む外国人の増加は国内の治安を不安定にすることは間違いない。2014年の犯罪容疑者数は25万5815人だったが、そのうち8万9594人はオーストリア人ではなかった。すなわち、容疑者の3人に1人は外国人だった。

オーストリア政府は先月19日、1日の難民申請者の枠組みを最大80人と制限する一方、ドイツで難民申請を願う難民の数を1日3200人までとすることを決定し、即施行したばかかりだ。

ちなみに、オーストリアの一方的な難民受入れ最上限の設定は欧州諸国で強い反発を受けている。欧州連合(EU)の難民問題担当アブラモプロス欧州委員は、「オーストリア政府の決定は国際法、欧州関連法に反する」として再考を要求しているほどだ。

普段は友好的な隣国ドイツのトーマス・デメジエール内相は、「オーストリア側のドイツ入国難民数3200人という数字は一方的な決定だ」と強い不快感を吐露した。それに対し、オーストリアのミクルライトナー内相は、「難民の公平な分担案が実行されない限り、わが国だけが難民を無制限に受け入れることはできない」と他国の受入れ政策を強く批判している、と言った具合だ。
 
オーストリア国民が武器を手にしようとする直接の契機は昨年大晦日の独ケルン駅周辺やザルツブルク駅周辺での難民・移民の婦女暴行事件の影響が大きいだろう。特に、若い女性が携帯警報機や唐辛子スプレーなどを購入している。

ボスニア紛争時、多くの難民がオーストリアに逃げてきたが、その後、武器使用犯罪がオーストリア国内で増えた。ボスニア紛争の影響で不法な大量の武器がオーストリアに流れ込んできたからだ。紛争や戦争は周辺国家の治安も悪化させる。

アルプスの小国オーストリアは欧州でも最も安全な国と言われ、凶悪犯罪は相対的に少なかった。そのオーストリアでも犯罪の凶悪化の兆しが見えだした。同国東部のブルゲンランド州では住民が自衛組織を創って夜警に乗り出しているという。オーストリア国民は武装し出したのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月5日の記事を転載させていただきました(編集部でタイトル改稿)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。