日本の選挙ポスターがダサすぎるので、アメリカと比較する --- 選挙ドットコム

街中に政治家ポスターが増えてきました。夏に参院選が実施されるのに加え、早期解散を見据えて衆院選の候補者も準備を急いでいるからです。ただ、大統領選で盛り上がる米国の選挙はもっとスタイリッシュ。ポスターだけを比較しても日米では全く異なります。

政治家のポスターて何で似たようなポスターばかりなのか

最近、街中を歩いていると、政治家が2、3人並べられたポスターをよく見かけます。今の時期に貼られているのは、ほとんどが夏の参院選用ポスター。法律で半年以内に選挙を控えた候補者のポスターは張ることができないため、政党のポスターと称して党首や地元の有力議員らと並んだ「2連ポスター」や「3連ポスター」を貼っているのです。

公職選挙法は国政選挙、地方選挙ともに任期満了の6か月以内から選挙が始まる公示日(告示日)までの間、立候補予定者の個人ポスターの掲示を禁止しています。しかし、政党のアピール用のポスターは適用外。ポスター全体に占める候補予定者の割合が3分の1以内なら、政党用ポスターとみなすこととしています。

いかにも本音と建て前を使い分ける日本的な制度だと思いますが、それはさておき、日本のポスターは政治家の顔がでかでかと載っているのが一般的。でも、米国ではまったく違います。

写真のように、米国のポスターに乗っているのは文字だけです。候補者の名前やキャッチフレーズが載っているだけで、写真は一切ありません。日本で選挙が始まると公園などに立てられる「公営掲示板」もないので、選挙が近づくとこうした看板が一般家庭の庭や公共施設の周囲に立ち並びます。

オバマ氏が初めて大統領に当選した時のポスターには顔が入っていますが、写真ではなく、ポップアート調のイラスト。色使いもかなりスタイリッシュな印象です。

一方、日本のポスターといえば赤や青、黄色を基調とした昔ながらの色使いが多く、「オシャレ」とはかけ離れたデザインがほとんど。オバマ氏のポスターと安倍晋三首相を前面に出した自民党のポスターを比較すると、日米のポスターの違いがはっきりします。

なぜ、日本のポスターは「ダサい」のか。法律を見てみても、特にポスターに顔写真を載せろとか、色使いはこうでなきゃだめだとか決められているわけではありません。名前だけを載せてもいいし、写真じゃなく、イラストを載せても構いません。

それではなぜかというと、文化や慣習ということでしょう。仮にこの夏に行われる参院選で公営掲示板のポスターを見比べた時、10人の候補者のうち、1人だけ顔がイラストだったらあなたはどう思うか。恐らく「泡まつ候補」と感じるのではないでしょうか。

特に保守的な高齢者は奇抜なデザインを好まないため、高齢者の投票率が著しく高い日本では候補者が定番デザインを選択するのでしょう。実際に東京都知事選などで変わったポスターを貼る候補が時々登場しますが、勝敗に絡んだ例を見たことがありません。

橋下氏はポスターも独特だった

そんな日本でも、少し雰囲気が変わったなと感じたのが2015年4月に行われた大阪都構想を巡る住民投票です。

橋下徹市長(当時)率いる賛成派が使ったポスターはオレンジを基調に、白の文字で「CHANGE OSAKA! 5.17」と書かれたシンプルなデザイン。このデザインの巨大な看板が街中に張り出されたり、オレンジのTシャツを着た若者が街中に繰り出したりするなど、異国の選挙のような選挙戦が繰り広げられました。

結果的に住民投票は否決されましたが、賛成派が予想を上回る票を獲得して僅差に。投票率は直近10年に行われた選挙の中で最も高いという結果になりました。大阪を二分する政策課題だった上に、賛成派の選挙手法が若者を中心とした市民の心を動かしたとみることもできます。

選挙の旧習を壊そうという動きはほかにもあります。例えば車体をガラス張りにし、候補者の全身を見えるようにした「金魚鉢カー」は数年前に誕生し、今では全国で引っ張りだこ。逆に選挙カーを使わず、自転車や徒歩で街頭活動を行う候補者も増えています。

ただ、本来選挙で重要なのは、ポスターのデザインでもなく、選挙カーの形でもなく、政策の中身。その点では、日本では政策を競う場があまりにも少ないと感じます。米国の大統領選では予備選の段階でことあるごとにテレビ討論会が行われますが、日本の大政党の党首選では一回あるかないか。衆院選でも数回、形だけ開催される程度です。

候補者選びについても同じ。米国では国会議員の候補者となるまでに何度も討論会を開き、予備選を勝ち抜かなければなりませんが、日本では身内による面接でほとんど決まります。予備選を開く場合でも、まともな討論会などありませんから、組織票によって身内や地方議員の「後継者」に決まる場合がほとんどです。

育休議員の不祥事をきっかけに「公募」への批判が一部で高まっていますが、公募自体に問題があるのではなく、その形式に問題があります。仮に何度も討論会を開き、徹底的に政策を競わせていたら「中身の薄さ」は見抜けたかもしれませんし、もしも政策が素晴らしいのであれば、不祥事の際に身内がもっと守ったはずです。

米国の大統領選は民主、共和両党の候補者選びがいよいよ始まり、11月の本戦に向けて盛り上がりつつあります。日本でも参院選に加えて、年内の衆院選を予測する声が高まっています。

選挙戦の様子を伝える報道を見ながら、ふと日米の選挙戦の違いに思いをはせてみても面白いかもしれません。そして日本の政治をもっと良くするにはどうすればいいか、考えてみてはいかがでしょうか。

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山本洋一:元日本経済新聞記者
1978年名古屋市出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。政治部、経済部の記者として首相官邸や自民党、外務省、日銀、金融機関などを取材した。2012年に退職し、衆議院議員公設秘書を経て会社役員。地方議会ニュース解説委員なども務める。
ブログ:http://ameblo.jp/yzyoichi/


編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2016年3月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。