色合いが変わった世界経済

岡本 裕明

のっけから申し訳ないのですが、今年1月1日の私のブログに次のような記述があります。「資源価格の話題にしましょう。私は2016年は底打ち、反転とみています。まず、悪役の一つ、銅は生産調整が世界で始まっており、一部では契約金額に上昇するものも表れてきています。次いで石油ですが、サウジはそろそろ我慢が出来なくなると思います。」

そして今年はゲームチェンジャーの年と再三再四、繰り返してきました。

今、明白にそのトレンドは描かれているように見えます。

「資源やエネルギーの国際価格に底入れ感が広がっている。鋼材の原料となる鉄鉱石の国際価格は約9カ月ぶり、銅は4カ月ぶり、原油は2カ月ぶりの高値だ。」(3月8日付日経電子版)とあるように年初からじわじわと価格は上昇基調をたどっています。中国に荷揚げされた鉄鉱石は7日に一日幅としては2009年以来となる19%アップを記録しています。原油はNYマーカンタイルが一時38ドル台、北海ブレンドは40ドル台を回復しています。

基調が上向きなところにビックな話題が飛び出したことが大きな原因です。それは中国が開幕中の全人代で年34兆円規模のインフラ投資を行うことを決議しそうな背景があります。もう一つは中国の一部不動産が暴騰している点でしょうか?不動産取引税軽減や住宅ローンの最低自己資金の引き下げが要因とされていますが、値上がりは深センあたりで昨秋から8割、上海でも今年に入って1-3割値上がりしているとのことです。

バブル崩壊にはバブルで対応するという政策でしょうか?確か、日本でも90年代半ばそんな議論があり、ミニバブル待望論とも称されましたが、少なくとも中国がある意思をもって強力な経済対策を打ち出してきたことははっきりしています。その政策が正しいか、長期的に辻褄が合わなくなるのか、という議論は一旦横に置き、目先の不安感を抑え込む方策に見えます。

もう一つは資源国通貨が回復基調にある点でしょうか?オーストラリアドルやカナダドルは明らかに強含んでいます。この微妙なバランスはアメリカが昨年12月に利上げ政策に転換したことが大きなきっかけとなっています。非常に裏腹な言い方ですが、オオカミ少年のようなアメリカがついに実行に移した利上げにより世界は「ほっとした」感があります。次回の利上げは6月のオッズが5割となっていますが、それぐらいゆっくりした回復はむしろ世界経済にとって心理的プラス要因となり、買われ過ぎたドルが調整期に入りやすくなっています。正にウサギとカメの話でアメリカウサギは木の下で昼寝状態に入っていると言えましょう。

さて、違和感があるのが黒田日銀総裁の発言。利下げが株高円安効果を生み出しているとして自身の政策に絶対的自信をお持ちのようです。2%インフレを生み出すために副作用が強いマイナス金利政策を場合により更に強化するとする点については私はどうしても納得できません。

日本国内のインフレが国内要因で起きえるのか、海外からの影響で起こり得るのか考えてみましょう。少子高齢化、国内経済成熟化、シェアなど新たな消費トレンドと作り出している国内状況をみればモノを競って購入する状況は起こり得ません。となれば需要喚起は重要ですが、それがインフレを引き起こすほどの国民レベルでのブームはないでしょう。

むしろ国内金利政策を引き下げることで高齢者の預貯金の利息収入がなくなり、消費減退を引き起こすばかりか、金融機関の経営にも影響が出てきます。それと金利ゼロのもう一つの意味合い、何年たっても経済は成長しないという裏付けを日銀が追認しているようなものでしょう。

私は以前、「2016年はインフレ率は2%にはならないが、上向きトレンドになる」とも指摘しました。それは資源価格上昇で輸入物価が上昇することを考慮していました。そうなれば黒田総裁は「ほれ、インフレ基調回復だろう」と自慢すると思いますが、金利引き下げが関与しているのではなく、世界のトレンドがゲームチェンジャーとなっていることに起因するはずです。極端な話、日本の金融政策はしばし放置でも影響はない気がします。

どうしても明白にインフレ傾向にしたいのなら消費税の10%引き下げを止めたらよいでしょう。そうすれば国民の気持は晴れることでしょう。安倍首相は今年、正念場を迎えるはずです。

世界経済、春にかけて好回転となりそうです。資源価格の代表的指標である石油は一日100-200万の需給ギャップが取れた時点でバレルあたり50ドル程度までの回復が一つの目途、仮に6月にOPECで減産等の決議が行われれば更なる上昇はあり得るとみています。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 3月8日付より