教会は神父の性犯罪を隠してきた --- 長谷川 良

欧州のカトリック教国フランスで聖職者の少児愛(ペドフィリア)問題が再び表面化し、教会内外で大きな衝撃を投げかけている。フランス南東部のリヨン教区のフィリッピ・バルバラン枢機卿が神父の児童性的虐待を知りながら、それを隠蔽した疑いが出てきたのだ。


▲サン・ピエトロ広場で行われた昨年の復活祭記念礼拝(2015年4月5日、オーストリア国営放送中継から撮影)

カトリック教会のスキャンダルが報じられると、同国のマニュエル・ヴァルス首相は15日、RMCラジオ放送とのインタビューでバルバラン枢機卿に事の真相とその責任を明確にするように要求し、「単なる言葉ではなく、行動で示すべきだ」と異例の強い語調で述べたという。

犠牲者たちは、「リヨン大司教は神父の性犯罪を知りながら告訴しなかった」と批判している。聖職者の性犯罪の隠蔽となれば、リヨン教区最高指導者、バルバラン枢機卿には大きな責任が出てくる。

リヨン教区の場合、一人の神父が1986年から91年にかけ、ボーイスカウトへ性的虐待を繰り返していた容疑だ。同神父は昨年8月末になって聖職を剥奪された。それまでこの神父は通常の職務を行ってきた。同事件の調査は今年1月になって始まったばかりだ。

検察側は聖職者の未成年者への性的犯罪を報告しなかったとしてリヨン教区、バルバラン枢機卿の責任を追及してきた。ただし、今回の直接の容疑はリヨン教区の別の神父が1990年初めに犯したペドフィリア容疑問題だ。同枢機卿は2009年、この件を知りながら何もせず、隠蔽した疑いがもたれている。

バチカン法王庁のロンバルディ報道官は15日、「未成年者への性的虐待が如何に深刻な犯罪か忘れてはならない。フランス教会、そして世界の教会は聖職者の性犯罪の防止のために全力を投入しているところだ」と説明している(バチカン放送独語版)。

ちなみに、フランス教会司教会議は15日、同国南西部の有名な巡礼地ルルドで開催されたが、司教たちの間でリヨン教区の問題が話題となったという。司教会議議長のマルセイユ教区Geoges Pontier大司教は、「犠牲者のために真相を明らかにすべきだ」と要求している。
同国では過去、聖職者の未成年者への性的虐待事件が頻繁に発覚してきた。一人の司教が2001年、神父のペドフィリア行為を報告しなかったという理由で有罪判決を受けている。

当方は今月4日、「聖座とバチカン市国の財務・運営について調整する機関」長官のジョージ・ペル枢機卿(74)が先月28日、出身地オーストラリアの「聖職者性犯罪調査委員会」(2013年スタート)から証人喚問を受けたことを報じたばかりだ。
同長官が直面している問題はオーストラリアのビクトリア州バララット教区で1970年代に生じた聖職者による児童性的虐待事件だ。ペル枢機卿は、「バララット教区のロナルド・ムルカーンス(Ronald Mulkearns)司教は当時、教会から解任された神父の本当の理由を私には告げなかった」と証言し、教会側の組織的な隠ぺい工作があったことを認める発言をしている。

世界最大のキリスト教会、ローマ・カトリック教会では聖職者の性犯罪スキャンダルはもはや日常茶飯事のことになった。カトリック教会は聖職者の性犯罪を完全に防止できないばかりか、その犯罪を隠蔽してきた。厳しい表現となるが、ローマ・カトリック教会は「組織犯罪グループ」と批判されたとしても弁解の余地がない。

ローマ法王フランシスコは就任以来、バチカン法王庁の機構改革に力を入れる一方、その気さくな言動で人気を呼んでいるが、多発する聖職者の性犯罪で教会の土台は崩れ出している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。