叙勲をもらった保育士はモチベーションが上がるのか

保育園の問題が大変盛り上がっているわけですが、保育士を叙勲で評価していくといったことを検討するという答弁を安倍首相が行ったそうです(安倍総理「叙勲において保育士や介護職員を積極的に評価していくことも検討」に激怒する人達と実際の答弁文字起こし)。この答弁について「叙勲よりも給料を上げろ」「全く的外れな対策」といった声が上がっています。

叙勲に関する答弁自体は聞かれたから答えただけなので、安倍首相は罠にかかったのかもしれません。では保育士の方は叙勲をもらったら「よし、がんばろう!」とモチベーションが上がるのでしょうか?評価してもらえると保育士の離職などにも歯止めがかかるのでしょうか。

不満を覚える要因・満足を覚える要因

経営学の中では「ハーズバーグの二要因理論」というものが有名ですが、ここでご紹介します。要約すると「不満を覚える要因と満足を覚える要因は別に存在しており、不満を覚える要因を排除しても満足にはつながらず、また満足を覚える要因を多く与えたとしても不満は解消されない」というものです(参照:ハーズバーグの動機づけ・衛生理論 |モチベーション向上の法則)。不満を覚える要因「衛生要因」、満足を覚える要因を「動機付け要因」と言っています。

この二要因理論から見れば「叙勲を与える」というのは評価する・承認するといった行為に当たるかと思います。これらは「満足を覚える要因」となっていますので、満足を覚えることになったとしても、不満を解消することにはならないと言えるでしょう。現在、保育士の問題として言われているのは「給与が安すぎる」というもので、特に社会的に評価されていないというようなものではないといえます。つまり「不満を覚える要因」とりわけ給与が低いという事情があるため、こちらを取り除くことが先決と言えます。

ですので、このハーズバーグの二要因理論から見ると、叙勲を与えて評価するという動機づけ要因は保育士の抱える衛生要因を解決することにはつながらないと言えるでしょう。もちろん評価されることは嬉しいことでしょうが、それが給与や待遇が低いという不満を打ち消すことにはつながらないのです。

仕事のやりがい・高時給では人材が集まらない理由

このハーズバーグの二要因理論はブラック企業でも説明しやすい理論です。ブラック企業ではよく「夢をかなえる」とか「お客様からの感謝」など、かなり精神的な面を強調しています。夢を叶えること(目標達成)もお客様からの感謝(承認)もどちらも動機づけ要因なのです。動機づけ要因なので、満足感を覚えてブラック企業で働き続ける人が多い一方、衛生要因である給与・待遇・会社の方針などの改善は見られません。だから外部からはブラック企業と言われるのです。

最近、東京・大阪などの都市圏を中心として給与がどんどん上がっています。ファーストフード店も最近では1000円を超える時給を当たり前のように掲載しています。にもかかわらずいまだに人手不足が叫ばれていますが、これも二要因理論を使えばわかりやすいでしょう。たとえ時給が1000円以上になっていたとしても、仕事そのものに満足を得られる動機づけ要因がなければ、人は働きたいと思わないわけです。

「パックの刺身の上にタンポポをのせる仕事」がもし仮にあったとして、その仕事が時給3000円であった場合、多くの人は働く上で不満はないと思います。しかしこの仕事を続けていれば「俺・私はいったい何をしているんだろうか。社会の役に立っているのだろうか。周りと比較して自分はダメなんじゃないか。」と考えてしまう、というわけです。

今、保育士に必要な物は衛生要因を取り除くこと

この二要因理論から考えれば、例えばブラック企業の場合、もっと給与や待遇・会社の方針といった衛生要因の改善に力を入れることで、人材が定着していくことが考えられます。一方で高時給になってきている都市部のファーストフード店については動機づけ要因に着目し、承認や達成などをうまく仕事の中で感じられるようにすることで、人材が集まり、定着する可能性があるでしょう。

今、保育士の皆さんに必要な物は叙勲のような動機づけ要因ではなく、一人で暮らしていけるだけの給与やしっかりと休みが取れる待遇、また信頼できる保育園の経営方針などの衛生要因を改善することではないでしょうか。その後、叙勲を増やしていけば保育士はもしかすると大人気の職種になるかもしれません。