アートバンキングあれこれ

森本 紀行

アートは、その保有からキャッシュが生まれないけれども、その上に何らかの権利を設定するか、賃貸に供することなどを通じて、キャッシュを生む仕組みに構成できるのならば、資産性を帯びてくるのではなかろうか。

実際、美術館や収蔵家が、保有している美術品を展覧会等へ貸し出すことは、普通に行われている。しかし、アート賃貸業は、事業として採算にのるのか。つまり、賃貸に出す側は、賃貸に供するための費用以上の賃貸料を受け取らねばならないが、賃貸を受ける側は、果たして、その費用に見合う以上の入場料収入や広告収入等を得るものなのか。事業として成立するにしても、一つの投資対象として構成するには、あまりにも小さすぎるのではないか。

賃貸が無理なら、何らかの権利をアートの上に設定できないか。一番簡単なのは、資金を貸付ける際に担保にとることだ。つまり、アート担保金融である。これは、日本での普及の程度はよくわからないが、欧米等では、個人富裕層の厚みが大きく、その少なからざる部分がアートの収蔵家であるという現実があるので、それなりの規模の取引があるようだ。

例えば、一つの典型的状況として、事業を営む富裕なアート収蔵家がいたとして、その事業のほうで緊急の資金調達の必要性が生じたとき、時間の制約のなかで調達方法を工夫するとしたら、自分の個人財産であるアートを担保に供して資金を借入れることが一番簡単であろう。

こうした資金需要は、アート収蔵家である富裕層には、様々な場面で生じるようである。よくあるのが離婚における財産分割にともなう資金調達だ。相続のときにも同じことがおきる。個人富裕層の総合的な財産管理を請け負うのがプライベートバンキングだが、このプライベートバンキングのなかの重要な分野が収蔵品のアートを使った資金調達であり、それをアートバンキングといっているのである。

もちろん、アートバンキングは、融資であって、アートへの投資ではない。しかし、アートバンキングが利用される状況の特殊性により、固有の収益源泉をもつならば、いいかえれば、アート担保であるが故の特殊性が融資一般の特性を凌駕するならば、アートへの投資という位置づけにしてもよいのではないか。

アートの特殊性としては、動産であること、市場性があること、しかも高価なものほど社会認知が広くより大きな市場性があること、つまり換価性が高いこと、また、公開のオークション等の存在により市場価格の目安ができていることなどがある。

また、アート担保融資の特殊性として、債務者が一般には富裕層であること、しかも、価値評価の容易な資産で担保されていて、しかも動産であるがゆえに占有によって対抗でき、市場性があるので担保処分も容易であること、つまり、優良な債権であるにもかかわらず、特異な用途に対応する非常態の金融であるため、相対的に金利が高くなりやすいことなどを挙げることができる。

アートバンキングは、投資として、魅力的なのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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