あるニューヨーカーからみた、日本人の”匠の技” --- 安田 佐和子

ある日、NYで育ったハイチ系アメリカ人の主人が自宅に帰ってくるなりこう言いました。

「日本人は、完璧であることにこだわり抜いているんだね」

オギルビ—や電通関連などNYの大手広告代理店でクリエイターとして渡り歩いた彼がいうところ、日本の建築物には”obsession for perfection”が見え隠れするのだとか。”完璧へのこだわり”と訳すより、”完璧を追求する上での強迫観念”とした方が近いかもしれません。

何かと申しますと東京駅周辺を一人で散策している間に、丸の内永楽町ビルに隠された”匠の技”に深い感銘を受けたんですよ。

この写真を見て、なぜ彼が衝撃を受けたのか分かりますか?


(出所:Instagram

はい、雨よけのルーフの格子と柱のラインが、向かい側のビルと見事に調和しているからです。徹底的な計測のもと、このような完璧な美を導き出したのかが伺えるというものです。

また渋谷にある居酒屋でも、驚きを禁じ得なかったんですよね。

何でもない床なのですがマス目が縦5つ、横7つ並んでいます。5と7が素数であることは明白ですが、5は五体や五臓、五本の指など人間の身体を表す数字ですよね。7はラッキー7なだけではなく、1週間を表す周期でもある。5と7を合計した数字12は、まさに1年の周期、十二支などの数字を指し極めて人間の生活に近い数字とも言えます。その整合性に、主人は至極感心しておりました。

日常生活に溢れる、日本人の完璧への探究心。見つけてみると、あまりに身近に溢れていて驚いてしまうかもしれません。

もうひとつ、主人が感銘を受けたエピソードがあります。

表参道で主人が最も惹き付けられたトッズ表参道ビルこそ日本が誇る建築家、伊東豊雄氏の作品であることはご存知の方も多いのではないでしょうか。ケヤキ並木にヒントを得た有機的な外観に未来的な香りを融合させ、果敢な挑戦への意気込みとともに”匠の技”を感じさせます。この方、NYの近代美術館(MOMA)から単独での個展開催をオファーされました。名誉ある申し出に、誰もがすぐさま首を縦に振ったと考えるでしょう。

しかし、伊藤氏は違いました。並みいる優秀な日本人建築家との合同展であれば、という条件を提示したのです。プリツカー賞をはじめグッドデザイン賞、日本建築学会賞など数々の賞を総なめしたスタークテクト(Star+Architect=Starchitect)の伊藤氏いわく「私を理解するには、私に影響を与えた同業者を理解する必要がある」。

伊藤氏の提案はMOMAに聞き入れられ、3月13日から7月4日まで”A Japanese Constellation: Toyo Ito, SANAA, and Beyond”が開催されます。伊藤氏を軸に、日本人建築家の作品が取り上げられる展覧会、ぜひNYを訪れる方は足を運んでみて下さい。

(カバー写真:Instagram


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年3月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。