増税は先送り?実は10%にしても全く足りない事実

増税先送りが現実味を帯びてきました。増税先送りによる政権へのダメージを危惧する声もありますがどうでしょうか。過去には、2014年11月18日、再増税の1年半延期と衆院解散を表明した際の記者会見の記録で、安倍総理は2017年4月からの再増税を断言し、消費増税見送りは国民生活と密接にかかわることなので、衆院を解散して信を問うとしています。

●増税先送りは既定路線か

実際に、内閣官房参与の、浜田宏一、本田悦朗両氏も、消費税10%の再延期を主張しはじめており「国際経済分析会合」では、スティグリッツ教授を中心に増税先送り等の議論がされています。前回の先送りのケースを踏まえれば容易に想定可能であり、既に先送りの土壌はできつつあると考えることができます。

そうなると、従来から国民に信を問うと宣言していますから、先送りの是非に関しては、衆議院を解散するダブル選挙を実行する可能性が高くなります。「増税しないことが争点」になりますから、これは秀逸な選挙戦略です。野党は、「消費増税しないことはアベノミクス失敗を意味する」と主張するでしょうが、その声が届くかは微妙です。増税賛成or反対の二択を争点にしたら、野党の争点が霞んでしまうからです。

しかし不思議です。日本を取り巻く経済状況を勘案して増税を延期するのであれば、本来は国会で議論すべきだからです。これまでも、野党は増税の延期や中止を求めていましたから、国会審議を通じて延期を決定すればよいのです。ところが、野党が選挙に怯えていることは見透かされていますから、ダブル選挙を引き合いにすることでさらに野党の足並みは乱れることになります。

●重大な問題を論点にしないのは何故?

日本には「重大な問題」が目の前に存在するのにそれを誰も議論しようとはしません。議論しないどころか誰も国民に説明しようとはしません。「重大な問題」とは国が抱える借金の問題です。「政府債務残高対GDP比」という財政健全化を比較する指標があります。2014年度のデータで比較してみます。

1位 日本 246.2%
2位 ギリシャ 177.1%
3位 ジャマイカ 135.7%
4位 レバノン 133.1%
5位 イタリア 132.1%
6位 エリトリア 132.1%
7位 ポルトガル 130.2%
8位 カーボヴェルデ 114.0%
9位 アイルランド 107.6%
10位 ブータン 107.6%
参照:IMF(International Monetary Fund)

日本の債務の割合は246.2%です。アメリカ(104.8%)、フランス(95.6%)、イギリス(89.4%)、などイタリアを除く主要国は90~110%程度の横ばいで推移しています。しかし主要国の財政のなかでも日本は突出して悪化しています。

これを小さくするには分母のGDPを大きくするか、分子の債務残高を小さくするしかありません。債務を削減することに注目が集まりますが、高い経済成長を実現することができれば税収も増えます。本来はこれが財政再建のあるべき姿ですが、成長が低迷していますから債務が減ることはありません。

このままでは、日本の財政は必ず破綻するといわれているのに何故、危機感をもたないのか不思議です。政治家は国民に対して「財政破綻のリスク、増税の必要性、歳出カットによる返済シミュレーション」をきちんと説明する必要性があるように思います。

そして、増税も歳出削減も難しい場合の終着点はハイパーインフレになります。インフレヘッジが必要になりますから外貨に交換しなければいけませんが、その頃は預貯金が国債に化けている可能性もありますので、引き出し制限がかかるかも知れません。

既に年金の減額、健康保険の自己負担分増加などの歳出カットは避けられないともいわれています。池田信夫氏(アゴラ研究所所長)が危惧する「ゆでガエル」にならないためにも、個々が自らの借金であることを認識しなければいけない時期なのかも知れません。

尾藤克之
コラムニスト