G7 ICT学生サミット。2015年春にG7 ICTサミットが開かれる高松かがわ国際会議場。浜田香川県知事、大西高松市長同席のもと、8カ国代表10名の高校生・大学生がICTの未来について討論しました。
参加者は日本から3名、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカ、EU(スウェーデン)。高校生と大学生。女性4名、男性6名。
司会を務めました。これからの社会を築くのは学生たち。ぼくら大人はそれに耳を傾ける。ぼくの役割は、彼らの声を受け止め、来春、高松で開催されるG7 ICTサミットの各国閣僚に対し、その声を伝えることです。刺激的でしたが、青く熱いエネルギーを浴び、疲れる仕事でした。
20年前の1995年、ベルギーで情報通信G7が開かれた際、大川功さんが「これからの情報社会は若者が築く。彼らの声を聞くべきだ」と発言。それがその後のジュニアサミットやMIT大川センター設立につながりました。その20年を検証する機会でもあります。
20年でPC/スマホ、ネット、SNSが普及し、情報社会が到来しました。でもまだ課題は山積しています。さらに、IoTやAIでまた新しい社会が到来します。これにどう対応し、どういう社会像を描くのか。彼らに問いかけました。
問いは3つ。1)現在のICTの課題。2)未来のICTの課題。3)世界への提言。
1) 現在の課題
もちろん参加した諸君はスマホやネットのヘビーユーザー。ただ、海外からの参加者がfacebookやskypeを多用するのに対し、日本のユーザはLINEが中心。海外はテキスト中心で日本は絵文字。国や地域によってメディアの使い方が違います。何か望ましいモデルはあるのか?バラバラなのがいいのか?と聞くと、「多元性を保つのがよい」という回答。大人です。
みなICTにはポジティブ。情報を得る機会が増え、経済が発展し、社会が効率的になる。一方、依存症や犯罪の誘発などのリスクも挙げます。これに対しては、管理・規制よりも自己管理の重要性を強調していました。
特に彼らが重視するのは教育でのICT利用。学習の機会を拡充し、反転授業など新しい時代の学びをもたらすと指摘します。他方、不正確な情報が流入することや、コピペ文化が広がることへの懸念も示しました。集中力が散漫になるという声も。ただ、これに対しても、ICTの利用を大人が管理することよりも、学ぶ側の対応を問う姿勢が目立ちました。
2) 未来の課題
ICTによって世界の政治は安定するのか。混乱するのか。その両面が議論されました。ICTが民主化を進め、政治の透明性を高める一方、依然として為政者によるプロパガンダ利用や虚偽情報の流通、さらにはサイバー戦争など、不安定化要因もぬぐえません。
ロボットやAIが人の能力を超えるという指摘をどう考えるか。IoTに対しては、社会経済の効率性を高め、エネルギー管理や運輸・医療・福祉などに役立つという肯定的な反応でしたが、ロボット・AIによる人の支配に対しては、正否両面の意見がありました。人類は技術をコントロールできるのか。すべきなのか。この意見も分かれました。
ただ、これらに関して、ぼくら大人の側も意見が定まってはいません。そこは未来の主役である君たちが、引き続き考えて、ぼくらを導いてくれたまえ、という結論にしました。
3) 世界への提言
彼ら一人ひとりに、提言として1語を選んでもらいました。
彼らが提出したのは、以下の10語です。事前の根回しなどナシ。
Innovation革新, Judgment決断, Tool道具, Accessibility利用権, Progress前進, Responsibility責任, Addiction依存, Challenge挑戦, Coexistence共存, Value価値.
見事に、多元的です。それぞれが言いたいこともわかります。
最後に、その10語を使って、一文メッセージを作ってくれと頼みました。彼らは時間を取って相談し、一文にまとめました。
It is up to our generation to use the tools we have to challenge the way we use ICT so we can progress in a more responsible and judgmental manner towards an innovative, accessible and non-addictive technological world where all cardinal values of the globe can coexist.
すばらしくないですか?
ぼくは、この実りある議論をしてくれたみんなに、もう未来は君たちに委ねたいと申し上げるとともに、この提言を春のG7サミットで報告することを約束し、会合を締めました。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年3月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。