昨年1月のシャルリ・エブド紙事件の時と、11月のパリ同時多発テロの時までは、「世俗主義・政教分離を強制するからムスリムが屈辱感を感じてテロが起きるんだ」と言っていた諸先生方の話を、今後は、よーく吟味して聞きましょうね。ベルギーは政教分離を強制するどころか、移民集団の自由に任せ、放置してきた。それなのに(だからこそ)テロが起きている。なお、植民地主義の過去もなく、人道主義で意図的に移民・難民を受け入れてきた北欧ですらテロが起きている、ということも深く受け止めましょう。
移民コミュニティを放置してもテロが起きる、ホスト社会に統合しようと思想信条に介入してもテロが起きる、じゃ、どうしたらいいんだ、といっぺん絶望するという、正しい学習の過程を進みましょう。
ちなみに「同化主義だからいかん」と米・英・仏の研究でさんざん叩かれていたドイツの移民政策が、結果的にテロを起こさせないという意味では一番うまくいっているようにも見える。といっても批判に答えて、形式的には米・仏的な要素を取り入れて変えていっているので、将来はどうなるかわからないが。
フランクフルトの空港で米軍関係者が狙われたり、ハンブルクのアラブ系の移民から米国に対するテロリストが出たりもした。ドイツそのものをターゲットにするテロが起こったらドイツはどうするのだろう。テロとは少し違うが、ケルンの移民集団が行ったとみられる集団暴行事件はドイツの世論を大きく変えたようだが。
本を作っていて忙しいので日本のテレビは1分も見ていないので、どういうコメンテーターが出ていたか知らないのだが、しかしテレビの発言では足りずにネットで発言しているものが回ってきたものをうっかり見てしまったら、けろっと別のことを、しかも猛然と言っている場合もあって、困惑至極。
とにかく猛然と「俺様正しい他は全部ダメ」と怒りたいだけの人が、歴代、中東・イスラーム研究には入ってくるからなあ。中東とか「イスラーム」を振りかざすと、とりあえず欧米とか日本とか全否定できるから。中東に関係する本の読者もそういう人たちなので、怒りたい人が怒りたい人向けに本を書いて売れる、というサイクルが成立してしまっている。
そういう人たちは対話が不可能なので、齢をとって弱っていってくれるのを待つしかないんだが、ツイッターとかで介助されてパワーアップしてる・・・メディアも変な人を出すのいい加減やめなさい、と思うがショーンなんとかがメイン・キャスターやコメンテーターになる世界なら仕方がないのかと思う。
一神教や「中東」は、日本の相対主義の環境のもとでは厨二病的人に親和性が高い。世間の無関心・無理解をかえって自らの絶対的優越性の証左と受け止める厨二病を原動力に、日本の中東研究が発展してきたことも否めない。
しかし世間の関心が高まると、さすがに怒りたいだけの人による怒りたいだけの人向けの本があるだけではよくないので、一般人向けの本を作りたいと思っている。しかしこういう本は怒りを吐くだけでは書けないので、一冊一冊に時間と労力がかかっています。ですので、しばしお待ちください。
編集部より:この記事は、池内恵氏のFacebook投稿 2016年3月26日の記事を転載させていただきました。池内氏に御礼申し上げます。