「18歳の7割が投票に行く」生活調査の結果はホント?

今年の夏に18歳選挙権が施行されるということで、若者への意識調査をよく目にするようになりました。しかしながら調査自体には問題はないでしょうが、しっかりとした調査結果の分析と解釈を行わなければ、間違った結論に行き着いてしまう可能性もあるかもしれません。以前もNHKの18・19歳に特化した政治意識に関する調査について分析を行いましたが、今回は、「全国大学生活協同組合連合会(東京)」が行った「第51回生活実態調査」の結果について分析と解釈を行ってみましょう。

まず参考になるのは、毎日新聞3月1日の記事『大学生7割、参院選「行く」生協調査』やハフィントンポスト日本版2月28日の記事『大学生45%が読書時間「ゼロ」と回答、過去最高に 大学生協連の調査』という記事です。記事によると大学生の7割が今夏に行われる参議院選挙に投票しに行く結果が出たとのことです。非常に興味深い結果なのですが、前述のNHK調査と少しだけ結果が異なっています。このように様々な調査によって異なる結果が導き出されているのは、一体どのようなことが考えられるのでしょうか。少し考えてみたいと思います。

なぜ行われているのか、生活実態調査の概要とは

まず全国大学生活協同組合連合会とは、どのような組織なのか。実は皆さんも馴染みの深い「大学生協」のことです。食堂であったり、購買部であったりと大学生に関わることが非常に多い機関です。その生協が大学生に対し、1963年から現在まで行っている生活に関する意識と実態の調査が「生活実態調査」であり、「学生の消費生活に関する実態調査」とも呼ばれます。なぜこのような調査を行うのかというと、大学生の経済的な、消費動向・意識を把握して、生協としての活動方針を立てるための基礎資料となり、大学生活での問題を探ろうとしているためです。

このような目的で行われた2015年に行われた第51回生活実態調査(第51回学生生活実態調査の概要報告)は、2015年10〜11月に全国の国公立および私立大学の学部学生を対象に行われ、74大学生協17605名が回答しています。その中で、経年変化を見るために、30大学生協9741名(回収率31.5%)の平均値が公表されています。調査票は郵送によるものが多いが、一部手渡しで行われている大学もあり、また標本の抽出率や抽出方法は各大学生協によって異なるなど、回収時点での統一的な方法は決まっていないようです。

回答者に関しては、男女比や文・理系比、学年比、居住形態(自宅か、下宿か)比などは、概ね半々のようです。国公立・私立大学かは2:1となっていますが、ここに加えて、経済・物価の違いや情報に触れる機会などの意識に影響を与えそうな土地柄について、つまり地方の大学なのか、都市部の大学なのかというのも重要なので気になりますが、生協のプレスリリースでは公表されていません。

生協が明らかにした大学生の政治に関する意識とは

この調査報告の中で、政治に関する意識を分析、解釈しているのは、「3.日常生活について (2)政治への意識(図表16~20)」です。ここで大枠の結果として「政治への関心は6割以上が「ある」。2年前に関心が低かった層の関心が高まる。16年夏の参議院選挙には7割が「行く」ものの、下宿生の1割は「行きたいが行けない」」とし、結果に対して、7点分析を加えています。ですので、その7点の内、数点に関して、本当にそのような解釈を加えることができるのかどうかを検証してみたいと思います。

2013年から2015年における政治関心を高めたのは?

(1)「国内外の政治の動向に関心があるのは64.5%で、2013年から約3%増加し、女子よりも男子の方が約4%高く、また理系より文系は約10%も高い。それぞれ関心が低かった層での関心の増加が大きい」(第51回学生生活実態調査の概要報告 より)

参考:「第51回学生生活実態調査の概要報告」 「政治と社会に関する若者意識調査」

この政治関心の分析に関して、NHK調査の「大いに関心がある」+「ある程度関心がある」の合計と大学1年生と比較しても、10%以上も高いものとなっています。「国内外の政治動向(生活実態調査)」と「日本の政治(NHK調査)」といった質問の違いの影響もあるのかもしれませんし、また大学生のみを対象としているため、少しだけ政治や社会に対する意識が高いのかもしれません。また関心が低かった層に関しては、各学年で政治関心への増加傾向が確認でき、少しだけ1年生と4年生の増加率が高いことも分かります。おそらく、大学生になったという情報取得の方法が多くなったこと、自分たちの身近に政治があるということを認識できたこと、大学生活も終わりに近づき、社会人になるということで社会・政治が近づいたということのかもしれません。

また男女と文理の違いをみると、全体として2013年から2015年を比べると、政治関心が低かった層は減少してきています。詳しく見てみると、男子よりも女子の方が関心のない層への影響が大きく、約6%も少なくなっており、文系よりも理系の方が関心の「低い」から「高い」に変化しています。政治への関心が低かったと思われていた属性(女子や理系)において、例えば、18歳選挙権や安保法制とSEALSや、東アジアの政治状況などの2013年から2015年の政治状況の変化が政治関心を高めた効果があるのかもしれません。

参議院選挙で投票に行くのは政治関心が高くて、日本の未来に明るい人だけ?

(2)「参議院選挙への投票に行くは71.1%。下宿生は自宅生より約14%も低く、「行きたいが行けない」が10.5%。投票に必ず行く学生は政治への関心が高く、日本の未来も明るいと思っている。政治への関心がある層は、ない層と比べ、投票に行くとしたのが26.9%高く、日本の未来についても明るいと5.2%も高く思っている。投票に行きたいが行けない学生は住民票の移動や時間の制約といった物理的な条件により投票行動が左右されているとも考えられる」(第51回学生生活実態調査の概要報告 より)

参考:「第51回学生生活実態調査の概要報告」 「政治と社会に関する若者意識調査」

ニュース記事の通り、参議院選挙への投票に関して、約70%の大学生が投票に行くと答えています。これはNHK調査の約60%と比べても約10%も高い値を示しています。18歳から22歳までの大学生と、18・19歳の約60%が高校生では、政治に接する機会の差が影響しているのかもしれませんが、この結果で注目したいのは、2つの調査の文言の違いです。「必ず行く」は同じですが、生活実態調査の「なるべく行く」・「わからない」とNHK調査の「行くつもりでいる」・「行くかどうかわからない」は似ていますが、回答する側では「なるべく」であれば努力の意味があるのでこっちに回答しようかなと思う可能性があることや、夏のことなんてわからないので確かなことは言えないといった場合は「行くかどうかわからない」に答えてしまうなど、違った捉え方をする可能性があります。さらに、大学生協が行った調査ということで、「いい子な回答」をしてしまうという社会的望ましさバイアス(Social Desirability Bias)が出てきてしまっている可能性もあります。

また「参議院選挙に行くか」、「政治への関心があるか」、「日本の未来は明るいか」という2、3つの質問をクロスさせて分析しています。その結果として、「投票に行く層は関心が高く、日本の未来が明るいと感じている」いった何となく分かる解釈を行っています。しかし逆に注目すべきは、政治に関心がない約50%の人が投票に行くと答え、かつ強い否定ではない「わからない」と26.1%が答えています。また日本の未来が暗いと考えている約70%の人が投票へ行くと答えています。この結果から、政治関心や日本の未来への認識などに関係なく、今年の夏の参議院選挙に行くことを考えている大学生は多いのかもしれません。

実際の回答人数に関しては公開されていないので、どのくらいの学生がこのような回答、意識になっているかは分かりませんが、これまでの調査の解釈はポジティブであれば全てポジティブ、ネガティブであれば全てネガティブといった形でしか語られていませんでした。ですが、このように複数の質問をクロスさせて見ることによって、いい意味でも悪い意味でも極端な回答・意識しか語られてこなかった政治意識の調査結果と分析・解釈に対して、ネガティブな事柄を示している結果でも、詳細に見ることによって少し光明が見えるような結果・解釈が様々なところから見えてきます。

しかし、この大学生協「生活実態調査」にも、質問や回答項目の聞き方や文脈の違いによって少し結果に揺らぎがあります。このような揺らぎを踏まえた上で、この調査結果を解釈していくことで、より現状の意識というものが明らかになると思います。

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<参考>
毎日新聞:3月1日の記事『大学生7割、参院選「行く」生協調査』
http://mainichi.jp/articles/20160302/k00/00m/040/089000c
ハフィントンポスト日本版:大学生45%が読書時間「ゼロ」と回答、過去最高に 大学生協連の調査
http://www.huffingtonpost.jp/2016/02/28/reading-books_n_9340254.html
全国大学生活共同組合連合会:第51回学生生活実態調査の概要報告 http://www.univcoop.or.jp/press/life/report.html
政治と社会に関する若者意識調査」
http://www.nhk.or.jp/d-navi/link/18survey/img/0125_yoron.pdf

渋谷壮紀

1988年鳥取県生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程在学中。専攻は政治意識・行動分析、実験政治学。研究テーマは政党公約分析、有権者選好のマクロ分析、熟議民主主義の実証研究など。学部時代にWebサービス開発の経験あり。

 

 


編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2016年3月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。