ども宇佐美です。
先日ちょっと茶化しも含めて百田尚樹氏の「カエルの楽園」の書評を書いてみたのですが、3月29日の安保法案施行をにらみ、「預言書か!」ってくらいに同書に書かれている内容を彷彿させるようなことが立て続けに起きてきたので「笑えなくなってきたな〜」と思っております。
具体的には以下の通りです。
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・3月20日以降:
→中国船がマレーシア、インドネシア、台湾、日本などの東南アジア海域での領海・EEZ侵入を活発化。
→なお西沙諸島には地対空ミサイルを配備済みで、南沙諸島の人工島の軍事施設は2016年内に完成予定。
・3月25日:民主党尾立議員が安保法案廃止を求める
・3月26日 :トランプ候補「在日米軍撤退もありうる。日韓の核兵器保有も認める可能性もある」と発言し、日米安保の条件見直しを求める可能性を明言
・3月27日 :中国船3隻が尖閣諸島周辺で領海侵入
:民進党が結党。立憲主義を強調。
・3月29日 :新安保法案の施行予定
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新しく誕生した民進党と一部マスメディアは新安保法案施行にあわせておそらく
「新安保法案は違憲。安倍首相は憲法守れ。」
と例によってキャンペーンを打ってくると思われるのですが、今アメリカ大統領選挙が行われているこのタイミングで、そのようなメッセージを発することがどのような意味を外交上持つのか、ということについて真剣に考えていただければと思います。
トランプ氏がこれだけ支持を集める中で(彼が実際に大統領になるにせよならないにせよ)日米安全保障条約には相当な逆風が吹くことは間違いありません。もともとクリントン氏は日本に対して厳しい態度をとりがちですし。さらには年内には南沙諸島で中国の軍事拠点が完成し、アジア海洋での脅威が増してくることを考えると、2017年1月に誕生する新アメリカ大統領は「日本は自分のことは自分でなんとかしろ」と求めてくることが可能性が極めて高いと予測されます。
ここで新たにキーファクターとして登場してきたのが、民主党と維新の党が合併して誕生した民進党なわけですが、彼らが声高に主張するのは「立憲主義」という概念です。「立憲主義」というと最もらしく聞こえますし、実際近代民主主義国家を支える大事な概念なのですが、結論から言えば彼らの言う「立憲主義」とは「憲法9条を理由にした安全保障政策の先送り戦略」にすぎないと個人的には考えています。
とはいえこれだけ言っても何を言っているかわからないので、一度ここで彼らの言う立憲主義なるものがいかなるものか、玉木議員の解説や前川議員の質疑などを参考に例によってQ&Aをつくって、なんとなく自分から見た「(民進党の言う)立憲主義」なるものを整理してみました。
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Q1:立憲主義ってなに?
A1:時の権力者に好き勝手に横暴な政治をさせないために「権力者のできることの範囲を憲法で縛る」という考え方だよ。
Q2:具体的にはどういうこと?
A2:たとえ選挙で選ばれたからといって、権力者は自分が思うがままに好き勝手な法律を作って国民の権利を制限してはいけないということだよ。憲法に違反する法律は無効なんだよ。
Q3:それって当たり前のことじゃないの?なんで民進党は今更そんなことを声高に唱えるの?
A3:安倍首相がこれまでの憲法9条の解釈を勝手に変えて、「集団的自衛権を認める」っていう安保法案を作って成立させてしまったからだよ。
Q4:ところで集団的自衛権って何?
A4:「同盟国を守るために戦う権利」のことだよ。政府の”憲法解釈”ではこれまで、自衛隊は自分の国しか守ってはいけない、っていう形で個別的自衛権だけを認めていたんだけど、安倍首相と自民党はそれを勝手に変えて、自衛隊はアメリカを守るためにも戦ってもいい、ってことにしちゃったんだよ。
Q5:変えたのは「憲法の解釈」なんでしょ。政府は憲法の解釈を変えてはいけないの?
A5:必ずしもそうとは言えないよ。時代の変化とともに憲法解釈を変えることはよくある話だよ。そもそも昔は自衛隊すら憲法違反って考えられていたんだから。
Q6:じゃ今回も「憲法の解釈」を変更してもいいんじゃないの?
A6:それとこれとは別だよ。今回の憲法の解釈変更は有名な”憲法学者”の多くが反対しているからダメなんだよ。
Q7:でも法律が違憲かどうか判断するのは裁判所だって学校で習ったよ。それに「違憲じゃない」って言ってる学者もいるって聞くけど?
A7:何を言っているんだい、そんなこと言ったら学者が存在する意味が無くなっちゃうじゃないか。最終的に判断するのは裁判所でも、その基礎となる学者の意見は大事にしないといけないんだよ。それに賛成派の学者は少数だからこの際無視してもいいんだよ。
Q8:でもそもそも安倍首相は何でそんな強引な安保法案の改正を実行したの?
A8:中国が強力になって海洋進出を積極化してきたことと、米軍が世界全体で規模を縮小してきて日本にも東アジア地域大での安全保障の貢献を求めるようになってきたからだ、と安倍首相の支持者は言っているよ。
Q9:中国が南アジアに人工島を造ったり、尖閣諸島周辺海域に偽装漁船を突っ込ませたりしているのは本当のことでしょう。その点について民進党はどう考えるの?
A9:これまで通りの個別的自衛権で対応すればいい話だよ。南アジアのことは日本には関係ないし、尖閣諸島が占領されたら日本は個別的自衛権に基づいて取り戻せばいいんだよ。それに日本は集団的自衛権に頼らずとも、外交や災害救助など武力以外で貢献すればいいんだよ。アメリカが何を言っていようが日本の憲法は日本の憲法だよ。
Q10:でもそうした活動はこれまでもやってきたことで、アメリカから求められていることはそれとは違うんじゃない?アメリカの有力大統領候補のトランプも「アメリカが日本を守る義務があって、逆はない日米同盟は不平等」って言ってるって聞くよ。
A10:それと立憲主義は別問題だよ。日本の憲法は戦争を放棄しているし、そもそも戦争というものは絶対ダメなんだよ。日本は戦争に巻き込まれず平和であることに国際的に価値があって、戦争に関わったらテロの標的になっちゃう可能性もあるじゃないか。
Q11:でもさっき例に挙げた尖閣諸島が中国に占領されたとして、自衛隊がそれを取り戻すとしたらそれは「戦争」なんじゃないの?
A11:そういうことが絶対起きないように努力するんだよ。だから、民進党は自衛隊が日本の周辺海域の警備だけに力を入れる法律を提案しているよ。
Q12:なんかずるくない。日本は悪い戦争をたくさんしているアメリカに地域を守ってもらっていて、自分たちは戦争に至らないように周辺だけの警備をしていればよいってことなんだよね?
A12:そうだよ、でも日本はその分アメリカ軍に”思いやり予算”としてたくさんお金を払っているから大丈夫だよ。地域の平和をお金で買っているんだよ。
Q13:つまり日本はお金を払ってアメリカに守ってもらって、自分では手を汚さない綺麗で平和な国なんだね。アメリカはそれが都合よすぎるから不満なんじゃないの?
A13:さっきも言ったけどそこは知恵を絞って、外交とか災害救助とかで日本独自の貢献のあり方を考えるんだよ。具体的な案はないけど、きっとどこかに答えはあるはずだよ。それに「立憲主義」の観点から言うと、日本が集団的自衛権を認めるなら、”憲法の解釈変更”なんかじゃなくて憲法を改正してやるべきことなんだよ。
Q14:確かにそれはそうだね。じゃあ民進党の憲法改正案を見せてくれないかい?
A14:そんなものはないよ。これから考えることだよ。議論もしてないよ。なんせ僕たちは出来上がったばかりなんだから。
Q15:え、でも民主党も維新の党も活動期間は結構あったよね?
A15:それとこれとは別だよ。民進党はこれからの政党だからね。
Q16:え、でも中国は2016年中にも南シナ海での軍事基地を完成させるって話だし、2017年にはアメリカの大統領は変わるし、あんまり悠長なこと言っている時間がないんじゃない?
A16:そんなこと言ったって無いものは無いんだから、とにかく今から考えるんだよ。それに集団的自衛権を認めたと言っても、新安保法は概念整理がいまいちで、国会審議でも満足に説明できない矛盾だらけのものなんだよ。あんな法律きちっと運用できるとは思えないよ。
Q17:そんな欠陥法案はいけないね。民進党はもちろん対案はあるんだよね?
A17:あるよ。新安保法をとりあえず廃止して、時間を巻き戻してしまえばいいんだよ。個別的自衛権だけの世界に戻れば法律上は矛盾がない、学者も納得がいく美しい法体系が取り戻されるんだよ。立憲主義が達成されるよ。
Q18:ちゃぶ台をひっくり返すんだね。でもそうすると日本に集団的自衛権を求めてきているアメリカとの関係は悪くなっちゃうんじゃないの?
A18:それはそうかもしれないけど、とにかく大事なのは立憲主義に基づく学者も納得がいく美しい法体系なんだよ。
Q19:でも民進党の綱領には「自衛力を着実に整備して」「日米同盟を深化させる」って書いてあるじゃないか?
A19:そうだよ。だからこれから、未来志向の憲法を国民とともに構想するんだよ。
Q20:それってつまり「問題の先送り」なんじゃないの?政権奪取したらどうするの?
A20:何を言ってるんだい。我々は改革を先送りしない政党だよ。綱領にもそう書いてあるよ。
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ま、これはあくまで私の頭の中での整理なのですがね。ただ冒頭にも言いました通り、中国の動き、アメリカの政治の風向き、を考えると本当に日本にはあまり時間がない、ということは確実だと思います。
南シナ海の基地完成、アメリカの大統領交代で2017年から状況が大きく変化すると考えると、この夏の選挙で憲法改正を問うていかなければならないのではないかと個人的には考えています。
そんなわけで前回の繰り返しになるのですが、こういうテーマを考えるにあたって百田尚樹氏の「カエルの楽園」は最適な著書だと思いますので、みなさまぜひご一読ください。
今後ともしばらく憲法がらみのテーマを続けていきたいと思います。
ではでは今回はこの辺で。
編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2016年3月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。