米サッカー女子代表が男女の待遇格差是正を申し立て --- 鈴木 友也

米サッカー女子代表チームが、サッカー協会による男女の待遇格差に我慢できなくなりアクションを起こしました。

U.S. women’s team files wage-discrimination action vs. U.S. Soccer(ESPN)
「男子との報酬格差に不服」米サッカー女子代表(読売新聞)

ご存知のように米サッカー女子代表はなでしこジャパンの好敵手。FIFAランキングも堂々の1位です。実際、米国内では弱い男子(といっても、FIFAランキングは30位)よりも女子代表の方が圧倒的に人気があります。

そして、日本との大きな違いは、女子代表の方が男子代表よりも稼ぐ点です。2015年では女子代表の方が男子よりも2000万ドル(約22億円)も多く稼いでいたとのこと。それにも関わらず、女子の受け取る報酬は男子の1/4に過ぎないということで、このたび代表チームの主力5選手(日本でもお馴染みのGKホープ・ソロやFWアレックス・モーガンら)が3月31日に米雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity Commission)に不服申立てを行いました。

この訴え、分かりやすく言えば、日本でも叫ばれている「同一労働同一賃金」を求める争いとも言えます。同じサッカーを職業としてやっていて、しかも男子よりも稼いでいるのに、なぜ報酬が低いのか?という疑問に、これまで米サッカー協会は明確な回答をしてきませんでした。

過激な発言で知られるソロ選手などは、「私たちは世界最高のチームで、ワールドカップで3回、オリンピックで4回優勝した。男子は大会に出場するだけで、私たちが主要大会で優勝して受け取る以上の額を手にしている」という声明を発表するなど、血気盛んです(笑)。

訴状では、

  • 女子は親善マッチ20試合(年間で求められる最低試合数)を全勝しても選手一人当たり9万9000ドルしかもらえないのに、男子は同じ条件26万3320ドルを手にする
  • 男子は全敗しても10万ドルが保証されている(女子の全勝以上の金額)
  • 20試合以上プレーしても、女子の場合追加報酬はないのに、男子は1試合につき5000ドル~1万7625ドルが支払われる

などの報酬条件を明らかにし、男女の不平等な状況を公表しています。

米国では、USオープン(テニス)などでは完全に男女同一賃金(Equal Pay)が確立しています。つい先日、BNPパリバ・オープンの大会ディレクターが「もし私が女子選手だったら、毎晩ひざまずいて神に感謝するだろう。テニス界をけん引する、ロジャー・フェデラーやラファエル・ナダルが生まれてきたことをね」などと女子が男子の人気・実力に便乗していると発言して大きな批判を浴びたばかりです。

特に米国サッカー界では女子代表の方が男子代表より稼いでいるだけに、この申立ての行方が気になりますね。サッカー協会がどのように反論するかも興味があります。

ちなみに、女子代表チームを弁護するのはNFL選手会やNBA選手会の顧問なども務める大物弁護士のJeffrey Kessler。米サッカー協会は苦戦するでしょう。

しかし、この不服申立てを行った3月31日というタイミングもKessler氏の指示だったのかは知りませんが、かなり練られていたように感じます。というのも、米男子代表チームは3月25日にアウェイのグアテマラ戦にまさかの敗戦を喫し、2018年WC予選敗退の崖っぷちに追い込まれていました。29日に再戦するホームのグアテマラ戦で敗れると、WC出場資格を失うという状況でした。

結果的に29日に勝利して事なきを得ましたが、ここで敗れていれば、「男子代表はWC出場もできないのに、世界ランキング1位の女子代表の4倍の報酬をもらっている」とその格差が際立つストーリーになっていたかもしれません。

いずれにしても、男女の報酬が最終的にどのようなロジックによって決められるべきなのかについて、協会や当局がどのような主張をするのか注目です。男女同一賃金の実現に向け、一石を投じる戦いになるでしょう。


編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2016年4月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。