米3月雇用統計、労働市場は春爛漫でも消費に疑問余地

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米3月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比21.5万人増と、市場予想の21.0万人増を小幅ながら上回った。前月の24.5万人増(24.2万人増から上方修正)以下とはいえ、2ヵ月連続で20万人台を維持。過去2ヵ月分では、0.1万人引き下げられた(1月分が17.2万人増から16.8万人増へ下方修正)。1−3月期平均は20.9万人増で、11−2月期の22.8万人増から鈍化。ホリデー商戦で膨らんだ2015年10−12月期の28.2万人増からも、遠ざかっている。

NFPの内訳をみると、民間就労者数が19.5万人増と、市場予想の20万人増に一歩及ばず。前月の23.6万人増(23.0万人増から上方修正)も下回る。民間サービス業は19.9万人増で、前月の25.1万人増(24.5万人増から上方修正)から鈍化しつつ、堅調な伸びを保った。今回も前月に続き教育/健康サービスや小売、ヘルスケア・社会福祉が牽引している。そのほか食品サービスを含む娯楽/宿泊が支えた。半面、輸送・倉庫が減少し、公益が横ばいにとどまる。

(サービスの主な内訳)
・教育/健康 5.1万人増、増加トレンドを維持<前月は8.4万人増、3ヵ月平均は5.4万人増
(そのうち、ヘルスケア/社会福祉は4.4万人増<前月は5.8万人増、3ヵ月平均は4.9万人増)
・小売 4.8万人増<前月は6.7万人増、3ヵ月平均は6.0万人増
・娯楽/宿泊 4.0万人増、増加トレンドを維持<前月は4.5万人増、3ヵ月平均は4.0万人増
(そのうち、食品サービスは2.5万人増、過去1年間の平均は3.0万人増から下振れ)
・専門サービス 3.3万人増、増加トレンドを維持>前月は3.0万人増、3ヵ月平均は2.0万人増
(そのうち、派遣は0.4万人増>前月は1.2万人減、3ヵ月平均は1.7万人減)

・政府 2.0万人増>前月は0.9万人増、3ヵ月平均は1.4万人増
・金融 1.5万人増、増加トレンドを維持>前月は0.5万人増、3ヵ月平均は1.2万人増
・その他サービス 0.8万人増<前月は1.4万人増、3ヵ月平均は0.6万人増
・卸売 0.6万人増>前月は0.1万人増、3ヵ月平均は0.6万人増
・情報 0.1万人増、4ヵ月連続で増加<前月は1.0万人増、3ヵ月平均は0.4万人増

・公益 ±0人<前月は0.2万人増、3ヵ月平均は0.1万人増
・輸送/倉庫 0.2万人減>前月は0.7万人減、3ヵ月平均は1.0万人減

財生産業は0.4万人減と、前月の1.5万人減に続き2ヵ月連続で減少した。米3月ISM製造業景況指数と整合的で、製造業が足を引っ張った。米3月チャレンジャー人員削減予定数で明らかになった通り、鉱業も減少をたどる。唯一好調だったのは、平年を上回る気温を背景に建設だった。

(財生産業の内訳)
・建設 3.7万人増、増加トレンドを維持>前月は2.0万人増、3ヵ月平均は2.5万人増
・製造業 2.4万人減、2ヵ月連続で減少<前月は1.7万人減、3ヵ月平均は1.0万人減
・鉱業 1.2万人減、15ヵ月連続で減少(石油・ガス採掘は1000人減)>前月は1.7万人減、3ヵ月平均は1.4万人減

3月NFP、人口の増加分を超える20万人台オーバー。

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.3%上昇の25.43ドル(約2800円)となり、市場予想の0.2%を超えた。前月の0.1%低下からも、改善している。前年比は2.3%の上昇となり、2月の2.2%を上回った。ただし、2009年7月以来の力強さをみせた1月の2.5%以下にとどまる。

週当たりの平均労働時間は34.4時間と、前月の34.6時間から短縮した。市場予想の34.5時間にも届いていない。財生産業の平均労働時間は40.0時間と、前月の40.2時間から短縮。2007年以来の高水準に並んだ2014年11月の41.1時間から乖離を広げた。

失業率は市場予想の4.9%を超え、5.0%だった。1−2月は、リーマン・ショック以前にあたる2008年4月以来の低水準だった4.9%となる。3月米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる2016年末予想のレンジ下限に届かなかったものの、長期失業率の見通しに近づいた。失業率の上昇はマーケットが注目する労働参加率が63.0%と、前月の62.9%を超えたため。1977年9月以来の低水準だった2015年9−10月の62.4%から改善が進んだ。

失業者数は前月比15.1万人増となり、前月の2.4万人増に続き増加した。雇用者数は24.6万人増で、53.0万人増を下回ったとはいえ6ヵ月連続で増加。就業率は59.9%と前月の59.8%を超え、2009年3月以来の高水準だった。

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている不完全失業率は9.8%と、少なくとも2008年5月以来の水準へ改善した前月の9.7%から上昇した。失業期間の中央値は11.4週となり、前月の11.2週を超え3ヵ月連続で延びた。平均失業期間は逆に28.4週と、前月の29.0週から短縮している。27週以上にわたる失業者の割合も27.6%で、前月の27.7%を小幅に下回った。とはいえ、直近で最短となる2015年11月の25.7%を超える水準を維持した。

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.2%増の1億2345万人と6ヵ月連続で増加した。パートタイムは0.1%減の2782万人と、6ヵ月ぶりに減少した。増減数ではフルタイムが2.4万人増、パートタイムは4万人減となる。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は週平均労働時間が34.4時間へ短縮したとはいえ雇用が堅調で、前月比0.2%の上昇し2月の0.4%の低下から改善した。労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)も前月比0.5%上昇し、2009年6月以来の水準へ沈んだ前月の0.5%低下を打ち消した。

イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長のダッシュボードに含まれ、かつ「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全失業率 採点-×
今回は9.8%と、少なくとも2008年5月以来の低水準に達した前月の9.7%から上昇。不完全失業者数は前月比2.3%増の612.3万人だった。

2)長期失業者 採点-○
失業期間が6ヵ月以上の割合は全体のうち27.6%と、前月の27.7%から低下。ただ2009年3月以来で最低を更新した2015年11月の25.7%を上回る水準を維持している。平均失業期間は28.4週で、2月は29.0週から改善。ただし6ヵ月以上の失業者数は前月比2.2%増の221.3万人と、4ヵ月連続で増加した。

3)賃金 採点-○
今回は前月比0.3%上昇し、前月に0.1%低下した分を相殺した。前年比も2.3%上昇し、前月の2.2%を上回る水準に。ただ2009年7月以来の高水準を達成した1月および2015年12月の2.5%に届かず。非管理職・生産労働者の平均時給は前月比0.2%上昇の21.37ドル(約2390円)で、管理職を含むヘッドライン以下にとどまった。前年比は2.3%上昇し、管理職を含めたヘッドラインの水準に並ぶ。週当たり平均賃金は非管理職・生産労働者で前年同月比2.0%上昇718.03ドル(約8万400円)で、管理職を含む全体の労働者の2.0%上昇の874.79ドル(約9万8000円)と伸び率は変わらない。

非管理職・生産労働者の平均時給、伸び率は3月に管理職を含む全体と一致。

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(作成:My Big Apple NY)

4)労働参加率 採点-○
今回は63.0%となり、前月の62.9%から改善しただけでなく2014年2月以来の水準を回復した。1977年9月以来の低水準だった2015年9−10月の62.4%から上昇基調をたどる。軍人を除く労働人口は0.2%増の1億5929万人と、増加トレンドを維持。労働人口の増加を背景に、非労働人口は0.2%減の9348万人と6ヵ月連続で減少した。労働参加率とともに、労働力が市場に戻って来ていることを示す。

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番のジョン・ヒルゼンラス記者の署名による「雇用統計で、Fedは利上げに急がない戦略を維持(Hilsenrath: Jobs Report Leaves Fed Go-Slow Strategy in Place)」と題した記事を配信。米国の労働者は労働市場に戻り始めているが、Fedはゆるやかに利上げを進める公算が大きいと伝えた。ただし、6月利上げの可能性に触れることも忘れていない

BNPパリバのポール・モーティマー・リー北米担当主席エコノミストは、結果を受け「雇用の伸びは力強く、平均時給は反発し、労働参加率は上昇した」と振り返った。労働参加率が上昇していなければ「失業率は4.6%へ低下した」とし、労働市場の健全ぶりを認識する。ただし「就労者数の伸びのうち、40%が低賃金の職(娯楽・宿泊、小売)だった」とも指摘。労働市場の進展は心強いものの「個人消費支出が表すように、成長率には疑問が残る」との考えを寄せる。インフレの上向きも問題で「年内、1%超の上乗せとなる見通しだが、賃金上昇率がこれを上回らなければ実質所得は鈍化し消費も減速せざるを得ない」と説いた。

——米3月雇用統計・NFPが20万人台を維持し、平均時給も上昇に転じ労働市場は堅調そのものといった様子です。その割に、個人消費が伸び悩んでいる点は気掛かり。ガソリン価格の下落が消費の起爆剤としての役割を果たさず、上昇に転じつつあるなかで個人が財布を緩めるかは微妙と言わざるを得ません。平均時給の前年比も過去と比較すると伸び悩み感は禁じ得ず、4月FOMCで利上げの地ならしを行う決定打となったかは疑問が残ります。FF先物動向でも6月FOMCの利上げ織り込み度は25%程度で、それほど上昇していませんしね。米株の上昇からも、利上げ警戒度が高まっていないことが見て取れます。

(カバー写真:Atomische * Tom Giebel/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年4月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。