尾木ママの感情的な“正論”では問題は解決しない --- 田中 紀子

寄稿

本日、LINEニュース(スポーツ報知等)に、尾木ママのこんなコメントが流れてきました。

尾木ママ バド選手に厳しい姿勢

「スポーツとしての認識やスポーツマンシップ精神のかけらもない」

と、これまたご自身のご意見がただの偏見に過ぎないということに気付かず、大声で印象論を振りかざす姿勢に、心底がっかりしました。

ここ数日申し上げておりますが、アスリートとギャンブルの関係については、諸外国では親和性があるものと理解され、調査研究や啓発がなされています

日本は、政府はもとよりギャンブル産業側や教育者の間で、そういった見解が示されておらず、著しく取り組みが遅れています。ハッキリ言って尾木ママの発言は、ご自身の勉強不足を露呈しているにすぎません。

1例をご紹介すると、
NCAA
(全米大学体育協会、National Collegiate Athletic Association)は、アスリートは、スポーツ賭博にのめり込む傾向があると調査の結果を公表し法・違法に関わらずスポーツ賭博に反対する声明を出しています。

そしてこのサイトをご覧頂ければお分かりのように、反対しているだけでなく、アスリートのギャンブル障害や予防についての研究を定期的に報告し、社会的責任を果たしています。

学生アスリートのギャンブル調査(NCAA)

ですから、今回のバドミントン闇カジノ事件についても、「自己責任」として本人だけにあまりに重い処罰を下すのではなく、国や教育現場での調査研究や啓発といった取り組みの遅れにも、責任の一端はあると思っています。

尾木ママが、正義感を振りかざし、一刀両断に選手を切り捨てる姿勢には、「ご自分こそ職務をお忘れではないですか?」と、警鐘を鳴らしたい所です。

そして、発信力のある尾木ママのような方が感情論だけで、我々の地道な啓発活動に水を差すようなことだけは、本当にやめていただきたいと思います。

また、今回の件で尾木ママは、「応援し期待したことが、本気で馬鹿馬鹿しくなりました
とおっしゃっていますが、以前キングオブコメディの高橋さんが、制服を盗んでいた事件では、
「そんな性犯罪者のキンコメのお笑いコント、五年前には優勝していたのですから、どれだけバカにされたのでしょうか!?」とコメントされています。

尾木ママ、キンコメ高橋に憤慨(スポーツ報知)

私は、尾木ママに問いたいのです。
こうして失敗をした若者を罵ることで、何か得られるものがあるのでしょうか?
それが教育者としての姿勢なのでしょうか?

教育者であるなら、若者が失敗を犯すことは、当然想定内であるはずです。失敗からどうリカバリーしていくかが人生の課題であり、それを教え導くのが、教育者の役割ではないでしょうか?

まして人は誰かの期待に応えるために生きているのではありません。
親の期待、先生の期待、社会の期待・・・様々な期待に応えようとして、多くの若者は潰れてしまったり、依存症を発症していきました。

あなたの期待に応えられなかった若者を、残念に思う気持ちがあったとしても、罵る権利はないはずです。

「何故、こんな残念なことが起きたのだろう。」
「どうしてこの人は、こういう行為に走ったのだろう」
そこにはどんな原因があり、再発防止には何ができるのだろう?
それを調べ、考え、提供する姿勢が、“教育者”であるはずの尾木ママのコメントには一切ありません。

一方で、リオ五輪代表からもれた、北島康介選手にたいしては、
「リオ選考、北島を行かせたい!!  尾木ママです!」
「厳しすぎるのも選手に過大なプレッシャーかけてマイナスかも?
なんて甘いのかしら!? 準決勝戦含め基準突破 オーケーにして欲しいです!」
と独自の理論を展開されています。

尾木ママとんでも提案に「教育者失格の声」(J-CASTニュース)

こうなると教育者として最も忌み嫌われ、小学生から「えこひいき」と指差されるような先生レベルで、もう尾木ママにオピニオンリーダーとしてコメントを求める意味があるのか?とマスコミの皆様に再考を願うしかないのかと思います。

田中 紀子 一般社団法人「ギャンブル依存症を考える会」代表
http://officerico.co.jp/blog/