国の防災対策推進基本計画の想定では、日向灘から駿河湾に至るマグニチュード9.1(東日本大震災とほぼ同じ)の地震が起きた場合には、約250万棟が全壊・焼失し、津波で24都府県の約8万7000ヘクタールが浸水し、約33万人が死亡すると予想されている。
もちろんこれは南海トラフが全面的に動いた場合の最大規模であり、一挙に起るとは限らない。過去の例でも、図のように1854年にも安政東海地震と安政南海地震が起り、1944年と46年に昭和東南海地震と昭和南海地震が起っている。
また間隔も70~200年とばらついており、「あと30年以内に70%」というのが国の予測だが、向こう100年ぐらいを考えると発生確率は1に近い。つまり時期はわからないが、東日本大震災クラスの巨大地震は必ずまた来るのだ。
これを正確に予知することは不可能だが、対策を立てることはできる。今回の熊本地震は南海トラフとは無関係だが、東日本も含めて考えると日本近辺の地震活動が活発化しており、太平洋側では巨大地震の対策を考えておいても無駄ではない。
今回も「川内原発を止めろ」と騒ぐデマが出たが、南海トラフ程度の地震は耐震設計で考慮されている。福島第一も、基準地震動を超える500ガル以上の地震でも緊急停止した。川内原発の基準地震動は620ガルだが、今回観測された最大の地震動は12.6ガルである。
地震の最大のリスクは、津波と建物の倒壊と火災だ。これは防波堤や耐火建物への改築で防ぐしかないが、南海トラフのように広域の地震に備えるには莫大なコストがかかる。防波堤ひとつでも1000億円以上かかるが、これで救えるのは数千世帯だ。
他方で、南海トラフと無関係な原発も停止され、1日100億円の化石燃料が無駄に燃やされている。その損失は累積で12兆円を超える。このコストを震災対策にかければ、1人の「命の値段」を1億円としても12万人以上の命が救える。
災害対策の目的は、被害をゼロにすることではない。被害を減らす費用対効果を最適化し、最小の費用で最大の被害を防ぐことだ。この点で、原発を止めることは防災対策としては最悪である。
財政難で防災費用を増やすことはむずかしいので、南海トラフと無関係な原発だけでも再稼動し、それによる利益の一部を電力会社が国や自治体の震災対策に贈与すれば、多くの命を救うことができるだろう。