2大長老はセブン&アイ本社から退出すべし

鈴木敏文会長(83)が退任を表明したセブン&アイ・ホールディングスの人事で問題が生じている。退任する村田紀敏社長らはセブン&アイの社長に中核子会社セブン―イレブン・ジャパンの社長を務める井阪隆一取締役(58)が昇格する人事案を固めたものの、退任する鈴木敏文会長(83)を最高顧問に就かせる案を示したからだ。

日本経済新聞によると、これに一橋大大学院特任教授の伊藤邦雄氏と元警視総監の米村敏朗氏の2人の社外取締役が「(鈴木氏の)影響力が残るような肩書きは適切ではない」として反対。引き続き調整する事態となっているという。

結論から言うと、社外取締役の判断は適切である。ただ、「多大の功績を挙げてきた鈴木氏を全く同社と無縁な存在にするのはあまりにも冷たすぎる」という会社側の存念もわからないではない。

したがって、最高顧問にするのは良いだろう。だが、セブン&アイ本社にその席を残さず、部屋を用意する場合は本社から離れたビルに置くことが望ましい。そうすることで影響力が残る事態を完全に遮断するのだ。先例がある。

味の素会長・江頭邦雄氏は1997年、総会屋への利益供与事件で当時の経営陣が引責辞任した後を引き受けて社長に就任。国内外の支店や工場を回り、事件で沈滞していた社員に「公平で透明な会社にするから、皆で会社を再建しよう」と呼びかけた。

沈滞の原因となっていた“長老支配”も排除した。相談役や顧問など会長・社長経験者の本社ビルからの退去と取締役会への出席停止を実現させたのだ。

ホンダの創業者である本田宗一郎氏やヤマト運輸の小倉昌男氏も同様だ。本田氏は73年、66歳で社長を退任、最高顧問となり、会社に自分の部屋を設けなかった。小倉氏も会長から相談役に退いた後、ヤマトに大企業病が広がっていることに危機感を覚え「恥を忍んで」2年後に会長に復帰したが、2年で体質改善のメドをつけて70歳で身を引き、以後ヤマトとの関係を絶った。

その潔さが今日のホンダやヤマトを支えている。

偉大な経営者は現役時代は多大の功績を残す。だが、いつまでも社内で勢力を保っていると、やがて会社にとってプラスよりマイナスの方が大きくなる。今回、井阪氏を退任させようとして社内の反対にあった鈴木氏は典型的だろう。

だから、影響力を残さない社内体制が必要なのである。その点では今回の人事で井阪退任に反対した伊藤雅俊名誉会長(91)も同様である。創業者にして大株主。その功績も大きい。

だが、伊藤、鈴木という両長老がいつもセブン&アイ本社に居座っていたことが、今日の「老害」を生み出したのではないか。

二人が本社に陣取って来た背景には、それぞれの息子の処遇の行方もあった、とはセブン&アイの幹部がかねて指摘するところだ。

特に伊藤氏はここ数年、鈴木氏の後継者育成について不信感を抱いていたと言われる。伊藤氏の息子の順朗氏(セブン&アイ取締役=57)を経営の中枢から外す一方で、実績が乏しい鈴木会長の次男である鈴木康弘氏(51)にネット事業の構築という重責を担わさせたことなどが背景だ。「やがては自分の後継者に」と思っているのではないか、と社内で疑惑が持たれた。

天下に知られるビッグビジネスで、そんな不透明な確執が人事の背景にあるとすれば、企業価値を大きく損なう。ガバナンスを明確にし、透明性の高い人事、経営を貫くには、両長老の本社からの退席が望ましく、不可欠であると思われる。