安倍首相が嫌いな人でも、「当面日本の政治は彼に任せるしかない」という事は認めざるを得ないだろう。現実問題として、参院選で仮に自民党が敗れたとしても、憲法改正の発議ができなくなるだけで、政権が揺らぐようなことにはならないからだ。
だから、彼にどういう政治をしてほしいかこそが重要な問題だ。ジャーナリストは、野党と足並みをそろえた「批判の為の批判」に終始するのではなく、そういう事こそを論じるべきではないのか? 当面の政治の舵取りは相当難しくなっているので、本気になって考えないと日本は危うい。
問題の根幹は米国
民主、共和の両党で残った四人の大統領候補者のうち、トランプ、クルーズ、サンダースの三人は、何れも極論で人気を集めている。常識的に見れば、最後はヒラリーで落ち着くだろうとは思われるが、何が起こるか最後までわからないのが選挙だ。そして、いずれの場合でも、程度の差こそあれ、米国は「自国本位」にならざるを得ないだろう。つまり、相当「保護主義的」になる。
米国の長期的な経済的利益を考えるなら、これは愚かなことだが、明らかに国民の不満が鬱積してきている現状を見ると、当面はやむを得ないのかもしれない。世界中がこのとばっちりを受けるが、日本が受ける影響もかなり大きい。
自動車などは現地生産が進んでおり、昔のように乱暴な輸入禁止措置などに怯える必要はないが、日本のこれからの成長戦略の数少ない目玉の一つになってきていたTPPは、ヒラリーでさえ反対を表明しているのだから、雲散霧消する可能性が少なくない。
米国の安全保障政策も、様変わりになるかもしれない。一つは「コストに比し得るところの少ない面倒な地域からは手を引く」という可能性であり、もう一つは「なりふり構わず乱暴な手を打ち、コストをかけずに国民を喜ばせる」という可能性だ。前者は、スーダン、イエメン、アフガニスタン、それに南シナ海と東シナ海だ。後者は、やるとすれば、ISと北朝鮮に焦点を絞り込んでやるのではないか?
極東も混迷を極めている
中国経済はそんなに急速には回復しない。矛盾はあまりに大きいので、解決には時間がかかり、その間、民心の不満は解消されることはない。私は現実主義者だから、好き嫌いは別として、習近平氏が権力闘争に勝ち抜き、汚職腐敗の根絶に邁進することを期待していたが、今回のパナマ文書は痛手であり、今後何らかの騒乱が絶対に起こらないとは言い切れなくなった。そうなると、彼は当然国民の目を外に向けさせたいだろうから、尖閣近辺はきな臭くなる。
韓半島はもっと混迷している。北朝鮮が大混乱に陥れば、中国は大量の難民を受け入れざるを得なくなるので、これを避ける為に、「生かさず殺さず」の状態をどうキープするか頭を悩ましていると思う。北朝鮮では、粛清を恐れて誰も何も言えない若い独裁者が、核戦争のボタンまで手中にしようとしているのだから、これはもう異常事態だ。そういう最中に、対北強硬姿勢を鮮明にしつつあった韓国の政権党が、選挙で予想外の大敗を喫した。もう、いつ何が起こってもおかしくない状態だ。
求められる世界的な大変革
北朝鮮はもとよりだが、中国も韓国も、問題の根は「経済不振」と「格差問題」の相乗効果にある。米国でも、「格差問題」が遂に政治の根幹を揺るがすまでになった。日本は、この三ヶ国に比べれば万事にまだマシな方だが、諸外国の影響をモロに受けることには変わりはない。世界中のどんな国でも、最早自らの経済を自国だけで守れる事などあり得ないのだから、これはどうしようもない。
欧州の混迷も待ったなしになってきた。EUの理念は今や地に落ち、体制そのものの崩壊はないにしても、これ以上の前進はありそうにない。そこへ「難民」と「テロ」という、部分的に相関するところもある二つの難問が、同時に襲ってきた。欧州の多くの国が、「公正で人道的な理念」を高く掲げていく余裕を、もはや失いつつあるようにも思える。
発展途上国はどうか? 本来なら、中国に続く世界経済の牽引車として、インドとブラジル、それに加えて、東南アジアや中南米やアフリカの国々に、大きな期待が寄せられて然るべきだったのだが、これらの国々多くでは、汚職と腐敗が足かせになって、成長戦略の進展が遅い。それに加えて、テロ勢力の浸透、中国経済の不振、米国の世界戦略の不透明さは、更に状況を悪化させ様としている。
要するに、どこを向いても問題ばかりで、あまり希望が見えない。ただ一つの希望は、「格差是正」と「金融資本暴走の防止」とが、先進諸国の政治の表舞台に出てくる可能性があることだ。これまでの歴史を見ると、人間は調子にのると暴走するが、状況が悪くなると意外な対応力を発揮する事がある。世界レベルでの「何らかの抜本的な変革」への期待を捨ててはならない。
日本の進むべき道
さて、こういう厳しい世界情勢の中で、日本はどうすればよいのか? 私などにはどうしても「時代錯誤」としか見えない昨年来の野党の動き、既得権になお踏み込めない自民党政府、相変わらずレベルの低い国会議員、権利の主張には熱心だが痛みを伴う改革には尻込みする国民、国際競争力を減衰させる旧態依然たる企業文化、改革の兆しが全く見えない高等教育の現状、等々、ここでも希望は見つけ出しにくい。
しかし、黙って手を拱いているわけにはいかない。私は、やるべきことは下記の三つだと思う。
第一に、政府は、この際「財政再建」は少し後にずらしてもいいから、「税と社会保障の一体改革」にだけは、文字通り不退転の覚悟で取り組んでほしい。既得権への切り込みについても同様だ
第二に、野党は、何にでも反対するのではなく、現実を受け入れ、その上に立った「建設的な提案」をどんどん出して、政府を牽制していく存在になるべきだ。(せめて「日本維新の会」にはそういう役割を果たしてほしい。)
第三に、地方政治、農村、企業、教育現場のあらゆるところで「大胆な改革」を推し進め、現在の日本が抱える本質的な問題の根底にメスを入れるような動きを、官民が力を合わせて鼓舞してほしい。もう、あまり残された時間はない。