断崖絶壁に立つ中国経済、ソ連崩壊の二の舞なのか?

田原 総一朗

東京では、桜が散り始めた。僕は風流なものに疎いほうだが、とあるニュースには驚いた。今年、花見をするために日本にやってくる中国人が急増している、というのだ。「爆買い」だけではなく、花見にまで中国人が押し寄せている。

しかし、海外旅行を楽しむ中国の庶民とは裏腹に、中国経済には刻々と危機が迫っているようだ。4月2日放送の「激論!クロスファイア」では、この中国の経済問題について激論をした。話をうかがったのは、元通産官僚で現代中国研究家の津上俊哉さんだ。『巨龍の苦闘 中国、GDP世界一位の幻想』という著書を昨年5月に出している。

2008年のリーマン・ショックのあと、世界中で同時不況が起きた。そんななか、中国は、いち早く景気を回復させた。その中国が、いま、「断崖絶壁に立っている」状況だと津上さんは言う。

中国はリーマン・ショック当時、約4兆元(当時、約57兆円)規模の超大型の景気刺激策を行った。その大部分を占めたのは公共投資だ。同時に、空前絶後の金融緩和も行った。これらの政策は、設備、不動産などへの爆発的な投資ブームを起こす。当時、中国は9~10%の経済成長を維持していた。

言うまでもなく、リターンがあってこその投資であるが、それにもかかわらず、実際はリターンが見込めない、「名ばかり資産」がほとんどだという。投資した金額は負債であるから、最終的には返済しなければならない。だが、リターンがなければ、返すことなどできないのだ。

津上さんは前出の著書の中で、「中国は金融危機の入り口に立っている」とすでに述べている。中国経済のこうした本質を見抜いていたのである。そして、本を出した直後の昨年6月に、上海株が大暴落、8月にも続落している。津上さんは、「世界が中国に幻想を抱いていたのだ」とも語っていた。

これから中国は、どうなっていくのだろうか。今年3月16日に閉幕した全国人民代表大会(全人代)で、「第13次5カ年計画」が採択された。

そこでは、すべての国民が、ややゆとりのある生活を送ることができる「小康社会」を実現するために、今後5年間の経済成長目標として、2020年のGDPを、2010年の2倍にすると謳っている。しかし、今後、年平均6.5%以上の成長を続けなければ目標は達成できない。こんなことが果たして可能なのか。

習近平政権は、国有企業の整理、合併を進め、できれば民営化したいと考えている。だが、国有企業のトップにいるのは共産党員であり、彼らが既得権益を容易に手放すとは考えられない。共産党員が抵抗勢力なのだ。

さらに、国有企業の淘汰を無理に進めると、500万人から600万人の失業者が出ると推測される。下手をすると、かつてのソ連と同じように体制崩壊の恐れすらある。

中国がソ連の二の舞になることを習近平は恐れている。李克強首相は記者会見で、「中国経済は絶対にハードランディングしない。ソフトランディングをする」と強調した。

中国は、本当にソフトランディングができるのか。ハードランディング、つまり経済が破綻したとき、当然、日本経済への大きな影響は免れない。けっして対岸の火事ではないのだ。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年4月18日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。