永住権緩和で人は本当に来るのか?

4月16日の日経トップは熊本の地震を抑えて「永住権緩和で人材誘致」となっています。また、安倍首相は19日の産業競争力会議で「永住権取得までの在留期間を世界最短とする」と表明しました。
意気込みには敬意を表します。

政府の本当の意図とそれに対する可能性について考えてみたいと思います。

日本は世界でも有数の永住権が取りやすい国の一つです。日本国籍は取りにくいのですが、永住権は好対照にあると言えるでしょう。ちなみに永住権と国籍の違いは一般に参政権のあるなしの違いのみです。よって、外国人へ門戸を開くことに抵抗がある日本にとってある程度しっかりしたバックグランドを持つ参政権のない永住者はウェルカムだということでしょう。

ほぼ同じコンセプトを持つのがカナダであります。世界で二番目の国土を持つカナダも人口はわずか3500万人。よって、政策的に年間20万人以上の移民を受け入れ続けています。これは人口比で0.5%程度になりますので日本に当てはめると60万人も受け入れているのと同じ計算になります。

人口増は消費増となり、経済は当然活性化します。バンクーバーやトロントの住宅ブームの一因は高い能力を持った移民受け入れに伴う住宅需要や消費需要、更には投資も引き起こす好循環でありましょう。

日本の移民規制の緩和は数年前から言われていましたが、首相がこの期に至ってあえて強調し始めたのは今の訪日外国人ブームが一時的に終わることなく、次にバトンを繋いでいくという発想に他ならないと思います。観光などで来て日本の良さを感じてもらったら次は日本に住んで働いてみませんか、ということかと思います。特に安倍首相は人工知能やロボットなどの第4次産業革命を睨み、IT関連のプロフェッショナルを招きたい、としています。

発想は分かります。が、成功はしないと思います。

永住するかどうか、それを決めるのはあまりにも多くのファクターがあります。社会が移民を受け入れているのか、税制などにメリットがあるのか、住環境が優れているのか、子供の教育に適しているのか、などなど多くの判断材料があります。特に永住に対してはファミリーの場合、奥様の意向が出やすく、その場合、当然、子供たちのことを第一義にするケースが多いように感じます。

私もカナダへの移民権所有者であり、周りにいる仲間たちと20年もそんな会話をしていますのでこの点については間違いはないと確信しています。

安倍首相のプランが魅力的ではないのは日本政府の勝手な都合だということです。つまり、日本に住みたいと思わせる魅力づくりが十分ではないのに第4次産業革命を推進する為に優秀な外国人を移民権で釣り上げろ、というようなものであります。優秀な人材であればあるほど今は世界中を転々としています。何カ国も渡り住み、そこでフレッシュな刺激を受けながら創造力と経験でモノを作り上げていきます。

私が若くてIT関連の仕事をしているなら、サンフランシスコにも住みたいし、インドの実態も知りたい、そのためにはシンガポールがちょうど真ん中で居心地がよいと思うかもしれません。今はPT(パーマネントトラベラー)と称する人々がごく普通にいて、自分の好きなところで好きな仕事をするスタイルが最先端な発想であります。ならば日本にわざわざ永住権を取る必要がどこにあるのか、分かりません。

「高度専門職」と称する在留資格を3年程度保持した上で移民権を申請すれば提供しますよ、というのが今回の趣旨であります。日経新聞によると15年4月にできたこの制度で15年末までに1508名が高度専門職の在留資格を取得、うち、中国人が64%とのことであります。ここから移民権まで申請する人が何%いるでしょうか?こう考えれば政府が目論むであろう人口減対策として良質な外国人居住者の増加による経済規模を維持するプランは机上のものとなりそうです。

私がカナダで移民としてエンジョイできる理由は何でしょうか?まず、国民が移民権者を差別扱いしません。移民権者にも同等の可能性があるともいえます。次に人々がギスギスしておらず、優しいし親切です。困っている人を助けるという精神も立派ですし、新しい人と出会えば割とすぐに心を開いてくれたりします。子供たちの教育に於いても英語が母国語ではない人の為のプログラムも充実しています。そして最後に環境がよい点を上げておきます。夏のバンクーバーに一度でも来たら誰でも虜になるのはまるでリゾートの中で仕事をしているようなものだからでしょう。

それに対して日本はどうでしょうか?通勤からしてストレスフルです。業務時間は長く、仕事仲間は保身的でオープンな感じがしないところも多いでしょう。ファミリーで移住した方の場合、奥様や子供が都会の中で楽しく過ごせるかといえば疑問符がつきます。日本在住の外国人の奥さんが他の外国人の方たちとつるみやすいのは言葉のハンディもありますが価値観の多様性に日本の社会が適応していないからではないでしょうか?

移民申請者は日本が魅力的であれば勝手に増えていきます。緩和したから移民が増えるという短絡的なものではないでしょう。私は口が酸っぱくなるほど言っていますが、日本の国際化をもっと進めないと日本は本当に埋没してしまいます。国際化とは日本人が日本を知ったうえで外国人ときちんとコミュニケーションを行い、相手と通じ合うことが出来るという意味です。これが出来ないと政府が望むタイプの移民は日本に来ません。

日本が良い国というのはよくわかります。が、時として相手を否定してまで日本が一番だと押し付けるような声も耳にします。日本とカナダを行ったり来たりしている私にとってこのあたりの温度差は何年たっても変らない気がします。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 4月21日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。