ドラギECB総裁、既存の緩和政策維持を強調

欧州中央銀行(ECB)は21日、フランクフルトで定例理事会を開催した。政策金利にあたるリファイナンス金利は、市場予想通り0%で維持。上限金利の限界貸出金利も0.25%、下限金利の中銀預金金利もマイナス0.4%で据え置いた。3月に決定した追加措置も、堅持した。

ドラギ総裁は、記者会見の導入で「金利は相当の期間、資産買入プログラム(が終了予定の2017年3月以降)より先まで、低い水準で推移すると見込む」と明かした。包括的な緩和策により「ユーロ圏での資金調達環境は改善した」とも豪語しつつ、バランスシートの調整のほか、構造改革の鈍い進展具合、エマージング国での成長鈍化を背景に「回復が阻害されている」とも言及。その上で「必要な限り、金融緩和を維持することが不可欠」と明言している。

マイナス金利は、ECBにとって広範にわたり「ポジティブ」な効果を与えたとも述べた。ごく稀な例外を除き「過去4年間で、成長を支援してきたのは金融政策のみ」と自信をみせつける。マイナス金利導入により、ドイツをはじめ議会が批判を受けるものの「我々は法律に従うのであって、政治家にではない」と切り返す。定例理事会では独立を死守することで「全会一致した」と豪語、議会の圧力に屈しないスタンスを強調した。

社債購入(コーポレート・セクター買入プログラム、CSPP)は、6月から開始すると発表。発行市場と流通市場で行う。ユーロ圏の中央銀行のうちドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ベルギー、フィンランドの6行が、月額800億ユーロに引き上げた資産買入プログラムの枠内で実施する。買い入れの限度は、それぞれ70%まで。条件として 1)オペの担保対象、2)BBBマイナス以上の格付け(投資適格級)、3)6ヵ月から30年、4)ユーロ圏に本籍を置く企業で、ユーロ建て、5)銀行及び銀行の傘下企業以外(親会社として銀行を保有する企業であればOK)――とした。

買い入れは6行のみでも、リスクはシェア。


(出所:ECB European Central Bank/Flickr)

対象を絞った長期的流動性供給オペ(TLTRO)に4年物を追加したTLTRO IIは、予定通り6月に実施するとも発表した。2017年3月まで四半期に1回、計4回実施する予定。貸出金利となるリファイナンス金利はゼロ%なので、ECBが定めた量より増加させた銀行に対しては中銀預金金利のマイナス0.4%を適用する(つまりECBが金利を支払う)。

そのほかBREXITをめぐり、ユーロ圏の成長は地政学的リスクを含め「下方リスクがある」と説明した。BREXITの議論自体「ボラティリティを生み、ポンド安に現れる通り市場に影響を与えてきた」と指摘。6月23日の英国国民投票まで激しい変動を予想したが、「回復への影響は限定的」と結んだ。

BNPパリバはレポートにて「導入部分でも強調したように、新たな追加策を投入するより政策実施に集中する意思を示した」と振り返る。その一例として、ヘリコプター・マネーについてのドラギ総裁による「オペレーション的に、法的に、原則的に困難」との指摘のほか、「協議されなかった」と明かした点を挙げた。一方、3月のECB理事会後の記者会見・質疑応答でドラギ総裁が用いた「一段の利下げは必要と想定していない」、「重点はさらに一層、金利より非伝統的政策にシフトしている」との言葉が今回はみられなかった。BNPパリバはここに注目、「追加利下げの可能性を排除していないのではないか」と指摘した。もっとも、BNPパリバは「資産買入プログラムの期限延長を9月に発表する」との予想を維持した。

――株式市場は独が上昇、仏英が下落、米国が下落とリスク・オフで反応しました。前回に続き株安・債券高・ユーロ安で取引を終えています。ドラギ総裁による「ECBの政策は機能しており、効果的だ。時間を与えて欲しい」と求めた影響で、追加策への期待感も後退したのでしょう。利下げ以外に追加策も見当たらず、中央銀行の政策限界説に信ぴょう性を与えたようなものでした。来週の26~27日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文で利上げ示唆が挟み込まれれば、さらにリスク・オフ相場が進展するシナリオが考えられます。「5月に売り逃げろ(Sell In May and Go Away)」の展開を迎えるのか、注意したいところです。

(カバー写真:ECB European Central Bank/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年4月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。