なぜプロの予想は「平凡」と「過激」に2極化する?

投資の「プロ」が良く新聞やマネー誌に今後の予想を書いています。しかし、その数字を見ていると首をかしげるものが多いのです。

写真はとある日の新聞に掲載されていた銀行のマーケット部門の人のコメントです。これはあくまで一例であって、個人攻撃をするのが目的ではありませんので、モザイクをかけています。それにしても、1ドル=108円前後の時に、105円~112円というレンジで予想するのは、何とも当たり前で平凡です。なぜ、このような予想をするのでしょうか。

その理由は、書き手の立場を考えれば理解できます。

銀行をはじめとする金融機関では、大きな失敗をしないことが出世の大切な条件です。メディアに過激な予想を出して、外れてしまえば会社の中で上司に怒られたり、評価が下がってしまうリスクがあります。無難で面白味が無い予想であっても、自分のサラリーマンとしての人生を考えれば、大外れするよりずっとマシなのです。

為替なら現状レベルプラスマイナス3円。日経平均なら現状プラスマイナス2000円というようにレンジを決めて、コメントを書く人が組織人に多いのは、このような社内事情が背景の場合が多い。私自身も銀行や証券会社で勤務していた経験がありますから、気持ちは良くわかります。

逆に、大手の金融機関のような組織に所属しないで独立して仕事をしている「評論家」の人たちの予想は、サラリーマンとは対極でとても過激です。書籍を書いて、講演で身を立てているような人たちです。

1ドル=60円台にドル下落という人もいれば、逆に1ドル=200円と予想する人もいます。日経平均4万円説を唱える人もいました。こうなってくると、予想というより予言に近いのかもしれませんが、このような予想をするのにもやはり理由があるのです。

過激な予想で極端な議論を展開しないと、面白くなく、人気が出ないからです。また、極端な予想を言い続けていると、それが予想というより一種の「芸風」に昇華していくことになり、キャラクターになっていきます。そうすれば、より人気を安定させることができるのです。

銀行員のような平凡で面白味のない予想をしていては、講演の依頼も来ませんし、本を書いても売れなくなってしまうのです。

私は、相場の予想をすることは極めて難しいことだと思っています。だから資産運用で大切なことは、予想をするより、どうなっても困らないように最悪の事態を想定して資産配分をしっかり考えておくことではないかという意見です。

銀行員も評論家も予想が外れても、責任を取るどころか謝罪さえすることはありません。予想の裏にある「大人の事情」が見えてくると、鵜呑みにして投資をすることがナンセンスであることがわかると思います。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所をはじめとする関連会社は、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2016年4月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。