【映画評】アイアムアヒーロー

漫画家アシスタントの鈴木英雄・35歳は、平凡で冴えない毎日を送っている。そんなある日、破局寸前の英雄の彼女が、人間を凶暴に変貌させる謎のウイルスに感染し、襲い掛かってくる。その感染は日本中に広がり、街は、人々が変貌を遂げた生命体ZQN(ゾキュン)であふれかえっていた。パニックに陥りながらも、英雄は趣味の射撃で所持する散弾銃を手に、標高が高いところでは感染しないという情報を頼りに、富士山に向かう。なりゆきでタクシーに乗り合わせた女子高生・比呂美、逃げ込んだショッピングモールで出会った勝気な元・看護師の藪と共に、決死のサバイバルを繰り広げるが…。

花沢健吾の人気コミックを実写化したパニックホラー「アイアムアヒーロー」。いわゆるゾンビ映画だが、ここまで本気のゾンビものは、邦画初ではなかろうか。堂々のR15指定の本作は、相手がゾンビとはいえ、銃撃戦や大虐殺など、血肉が飛び散る容赦ないグロ演出であふれていて、しばしば絶句する。さらに、韓国の閉鎖されたアウトレットモールで行った大規模ロケも気合十分。なんと世界3大ファンタスティック映画祭を制するという快挙を成し遂げてしまった。

物語の主人公・英雄は、射撃が趣味で銃を所持しているが、ゾンビや卑怯な人間相手に引き金を引くことさえためらうヘタレ男。変わりたいという気持ちはあるのに、世界がこれほど激変しても、自分は変わることができないと嘆く英雄は、ヒーローからは最も遠いところにいる存在だ。だがそんなダメ男にも転機は必ずやってくる。そこまでの情けなさがハンパないだけに、ついに覚醒するその時のカタルシスもまたハンパないのだ。人間は噛まれるとゾキュン化するが、英雄とともにサバイバルする女子高生の比呂美は、歯のない赤ん坊に噛まれたことで半分人間、半分ゾキュンのハーフ・ゾキュンになる。異形でありながら人間性も残す彼女をとことん守る行為は、英雄にしかできない崇高なヒロイズムなのだ。
【65点】
(原題「アイアムアヒーロー」)
(日本/佐藤信介監督/大泉洋、 有村架純、吉沢悠、他)
(グロテスク度:★★★★☆)

この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。