日銀の追加緩和観測への疑念

4月22日の東京市場では、後場に入りブルームバーグの記事、「日銀:金融機関への貸し出しにもマイナス金利を検討-関係者」を受けて円安が急速に進み、日経平均も押し上げられた。ドル円は22日のニューヨーク外国為替市場で111円80銭台をつけるなど、さらに円安が進んだ。これにはいくつかの要因が重なったものとみられる。

ひとつはCFTCが発表しているIMM通貨先物の集計において、投機筋の円の買越額が過去最大水準となっていることで、何かしらのきっかけで反対売買(円売り)が入りやすかったものとみられる。しかも海外ヘッジファンドなどは日銀の金融政策の動向には敏感なだけに追加緩和は困難かとの見方であったのが、この手段であればあるうるかとの思惑も働いたのかもしれない。

ちなみに22日の債券市場は、この記事が出たことで債券先物には買い戻しも入るが、それほど大きく動いたわけではない。2年債は過去最低利回りを更新したが、ほかの年限は過去最低利回りは更新しておらず、むしろ超長期債は大きく値崩れしていたように、21日の20年国債入札に絡んで大きく買われた反動も出ていた。

さてそのブルームバーグの記事の内容であるが、「複数の関係者によると、今後、日銀当座預金の一部に適用している0.1%のマイナス金利(政策金利)を拡大する際は、市場金利のさらなる引き下げを狙って、貸出支援基金による貸出金利をマイナスにすることを検討する可能性がある。」とのものである。英文では「BOJ Official said」となっていた。しかし、日本語の記事からは日銀の関係者からのコメントであるとは触れておらず、民間エコノミストの「案」がいくつか紹介されていた。

熊本地震もあり、日銀も何らかの動きを示すことが予想され、支援策となれば貸し出しに絡んだものが想定される。そうであればECBが3月10日に導入を決定したTLTRO2と呼ばれる物に近いものとなる。このような手段を日銀も取るのではとの観測はECBの決定後に出ていたことで特に目新しいものではない。

ただし、この記事には「マイナス金利(政策金利)を拡大する際は」という前提も付けられていた。批判が高まっているマイナス金利の深掘りは容易とは思えないにもかかわらず、日銀はやる気なのかとの思惑も強まった可能性がある。

G20では日銀のサプライズ的な金融緩和策についても懸念が出ていたことで、事前にそれとなく示唆することで様子をみたのではとの見方もなくはないが、今回はそのような動きがあったわけでもないようである。

ただし、日銀にとっては今回の外為市場の動きをみて、良い思考実験が出来たと思っているかもしれない。昨年末あたりから日銀やECBの追加緩和もしくはその示唆に対し、市場はポジティブな反応を示さなくなっている。しかし、今回は素直な反応を示したと。

だから4月27、28日の金融政策決定会合で金融機関への貸し出しのマイナス金利化と合わせてマイナス金利の深掘り、つまり現状のマイナス0.1%をマイナス0.2%にするのかといえば、ハードルは依然として高い。たしかに今回出される展望レポートで物価などの見通しを下方修正し、物価目標達成時期を先送りする可能性があり、そのため追加緩和を検討かとの思惑もなくはない。

1月のマイナス金利政策もとりあえず追加緩和手段はないのかと探し求め、その結果のマイナス金利政策であった。ただし、影響を受ける金融機関などに事前に対策を講じる時間も与えず、システム上の問題だけでなく、資産運用にも負の影響を与えるなど、マイナス金利に対しては効果よりも懸念が強い状況となっている。日銀はまずこの懸念を払拭させることが必要となるのではなかろうか。闇雲に緩和を進めれば良いというものでもない。しかし、黒田総裁の行動は予測できないことも確かである。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。