安倍政権が些事に指示を乱発したがる理由

メディアも安易に宣伝の片棒

安倍政権をめぐる政治記事で、いつも気になっているのは、首相がやたらと「指示」を乱発することです。熊本地震の発生で、また「首相指示」が急増しました。歴代政権に比べても、「首相指示」が突出して多いのではないでしょうか。

新聞をよく御覧になってみてください。同じ日の紙面でも、何度も文中や見出しに「首相指示」が登場します。「首相指示」の実態をさぐることは、安倍政治を解明することにもなります。

「指示」もさまざまでしょうね。首相が決断しなければ進まない「本当に必要な指示」はあります。担当閣僚か局長レベルで済むのに「首相がわざわざ指示」ということありましょう。会議の流れで決まっているのに首相が決断したように思わせる「見せかけの指示」もあります。首相の言動にメリハリをつけるために、ディアが好んで使う「首相指示」などですかね。「指示」と書けば、見出しにとれるし、扱いも大きくなります。

「首相指示」は首相寄りの新聞に多い

新聞によっては、なにかにつけ「首相指示」と表現しています。首相に親近感を持つ読売、産経、日経あたりに多いでしょうか。首相と距離をおく朝日、毎日は本当に必要な時に限って「首相指示」と書いているようです。政治学の教授が学生を使ってデータをとれば、興味深いデータがとれるでしょう。

実例を紹介しましょう。「首相は地震非常対策本部会議で、仮設住宅の建設を急ピッチで進めるよう指示」(26日の日経)。当たり前すぎる話で、なにも首相が指示しなくても、そういう流れでした。「高市総務相の被災地への普通交付税の前倒し交付を指示」(24日の日経)。担当の総務相が当然のこととして「前倒し交付」決め、報告すれば済む話です。

「必要な生活物資が1人ひとりに確実いきわたるようあらゆる手段を尽くしてほしいと、首相は述べ、輸送・配布体制の改善を指示した」(19日の読売)。こんなことまで首相がいうのかい。局長か担当課長がいうべき案件でしょう。どうも首相はメディアで活躍している姿を見せたいために、「おれに言わせてくれ」とでも、細工をしているのでしょう。

官邸もメディアに依頼か

新聞などは、「・・・と述べた」、「・・と表明した」、「・・との考えを明らかにした」で済むものを、「指示」に仕立ているのでしょう。想像するに、官邸が「指示と表現してくれ」と、メディアに頼み込んでいるとも、考えられます。思い当たるメディアは見識を持って、ゴマすり表現を自粛した方いいと思います。

米国のオバマ大統領が安倍首相のように、事細かなことでいちいち指示することはないでしょう。大統領の指示とは、国の選択の基本にかかわる問題で、国際的に利害が対立しているとか、国内で意見調整が難航し、政治的指導力を発揮しなければならないケースとかに限られるでしょう。局長や課長が仕切ってくれる案件に、「指示」なんかださないでしょう。首相が言及すれば、主旨が徹底するという効果までは否定はしません。

「指示」を出すことが好きなあまり、余震が続く熊本地震で、「屋外にいる避難民が全員、夜間は屋内で過ごせるようにする」と、「指示」を出したとか。実態は「余震で建物が壊れるのが危険なので、屋外に退避している」のでしょう。「指示」の上滑りですね。

重要案件ほど指示を避ける

首相政治手法には、選挙に影響を与えそうな案件は、有権者の目の前から遠ざけておけ、という特徴があります。国政選挙前に、消費税引き上げを先送りし、争点にならないに細工していますね。TPP(環太平洋経済連携協定)法案の審議を急がせず、国政選挙ぶつからないようにしてしまいました。その代わりに、閣僚、局長クラスで扱え、結論がはっきりしている些事を好んで取り上げるのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年4月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。