日本に住んでいた時、自分が日本人であると強く意識することは多くなかったが、海外に住むようになると自身の出身国の話には耳をそばだてている自分を発見する。
めったにないが、スポーツでオーストリア・チームと日本チームが対戦するような時、当方は日本側を応援する。最近、ポーランドのカトビツェで開催されたアイスホッケー男子世界選手権ディビジョン1Aで両国ナショナル・チームが対戦したばかりだ。昔、柔道でオーストリアの柔道家ペーター・ザイゼンバッハ―が86kg級で金メダルを獲得した時など、うれしい半面、オーストリア柔道家が本家日本の柔道を破ったという事実に複雑な思いを感じたことを思い出す。
オーストリアでも連日、福島第1原発事故が大きく報道された。オーストリアは欧州で唯一、「反原発法」を施行する国だ。それだけに、オーストリア国営放送は福島原発事故を厳しく批判的に報道。汚染水が海に流されるというニュースの時など、環境保護グループの意見を大々的に報道し、汚染水の安全性などを冷静に報道する姿勢はまったくなかった。オーストリア国営放送は昔から日本の問題については批判的に報道する。その度、当方の心の中に潜んでいた愛国心が疼く。
ウィーン大学の学生新聞(月刊)は先月、日韓両国が昨年12月、合意した慰安婦問題を特集していた。その観点は韓国側からの視点で終始し、旧日本軍の戦争犯罪を糾弾していた。学生誌はもともと左翼系だが、内容の公平さに欠けていた。
当方は同記事を読み、「(在オーストリア)日本大使館は学生新聞の編集部に抗議の電話一本でも入れるべきだ」と考えた。残念ながら、日本人外交官が抗議の電話をしたとは聞かない。
ウィーンで慰安婦関連映画が上演された時も日本外交官は沈黙していた。韓国側が「日本海の呼称問題」で国際シンポジウムをウィーンで開催した時も日本側代表は誰も参加しなかった。国際会議の会場は日本大使館から徒歩で数分のところにあった。その気になれば、顔を出してシンポジウムの参加者の意見を聞くことぐらいは出来たはずだが、日本外交官の姿はなかった。いずれにしても、韓国は慰安婦問題や日本海呼称問題では海外でも積極的にアピールするが、日本外交官はいつも沈黙しているだけだ。
オーストリアに住みだした直後、日本のことが批判的に言われると、当方は誰からも頼まれていないのに、直ぐに激しく反論したものだ。だから、知人から「君の頭上には日本の国旗が翻っているよ」と揶揄された。30年以上海外に住んでいると、初期のような燃える愛国心は消えていったが、日本のことが不法に批判されたり、誤解されていると感じた時はやはり穏やかではいられないのだ。
蛇足だが、ウィーンにも反日運動をしているとしか見えない日本人が住んでいることだ。彼らは集団的自衛権の限定行使などを容認した安全保障関連法に強く反対し、ウィーン居住の日本人相手に署名活動をしていた。ウィーン大学日本語学科が1980、90年代、海外の反日運動の拠点だったことを思い出す。ウィーンでは日本人の反日運動の歴史も結構、長いのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年5月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。