「トランプ大統領」で現実味増す「日本国憲法改正」

今日は日本国憲法が施行されて70年目の記念日ですね。全国各地で、憲法9条の護憲・改正を巡って両派が集会を開き、その様子をテレビニュースで眺めるというのが最早伝統行事と化しています。

考えてみれば、この69年間、日本はアメリカの軍事力の傘の下にいました。護憲派:軍隊を持ってはいけない、改憲派:憲法改正して自衛隊を軍隊に、という党派が見事に2つに分かれて議論を延々と繰り返してきました。

1991年のソ連崩壊による東西冷戦の終結に伴い、「自民党=改憲、社会党=護憲」のいわゆる55年体制からの脱却が叫ばれるようになります。実際に社会党は民主党に統合され、政権交代も起こり、政党の数は増えました。しかし、政治の場では、相変わらずステレオタイプな極論の二項対立は続きます。

それは、何故かというと東西冷戦後に、今度はアメリカ一強のグローバリズムが到来し、経済的に力を付けた中国が尖閣や南シナ海で覇権示威行動をとったため、「自衛隊を逐次強化して、核武装したアメリカの傘の下に留まる」という状況に変化が無かったからです。ご注意いただきたいのは、それは日本が自主的に選んだ訳ではなくて、米国と中国が作り出した国際環境をフォローせざるをえなかった他律的要因によるもので、政治家の怠慢ではありません。皆、それぞれに与えられた役割を粛々と演じてきたのです。

日米の軍事・防衛費のトレンド

でも、今年は少し状況が違います。アメリカでトランプ旋風が吹き荒れています。貧富の格差の拡大と固定化、世界経済の行き詰まり、政権への庶民の怒りが爆発しています。それは我が国の経済社会にも影響を与えます(詳しくは拙稿「トランプ大統領」とIoTで日本は輝きを取り戻すをご覧ください。)。しかし、それ以上に軍事・外交上のインパクトが大きいのです。トランプ候補は日米安保条約の抜本的見直しを明言しているからです。

ご注意いただきたいのは、これは彼のキャラクターによるものではないということです。彼は時代の寵児として出るべくして出てきたのです。彼もグローバリズムの終焉という空気を敏感に読み取って、役割を演じているに過ぎません。根底の世界潮流は、新興国が力を付け、イスラム問題の泥沼化もあり、アメリカの相対的な優位性が揺らいでいることです。比較的落ち着いているアジアに戦力を割き続ける余裕はアメリカには無くなっているのです。

これからは、スーパーパワーなき「0極体制」となり、世界で、アジアで群雄割拠が新しい秩序になっていくでしょう。それに違和感を覚える人も多いのですが、考えてみればこの70年間が異常で、いくつかの有力国が世界でひしめき合うという状況の方が、世界の長い歴史を振り返ればノーマルだった訳です。日本も明治維新から第二次世界大戦までの70年間、なんとかそういう世界潮流のなかでうまく泳いできたのです。

従って、私たちは、好むと好まざるとに関わらず、新しいパラダイムを受け入れて、「アメリカ抜きで」中国・ロシア・北朝鮮と対峙する現実を直視する必要があります。

そのソリューションとして、「憲法を守り、非武装中立で平和を希求すべき」あるいは「改憲をして軍事増強する」。いろいろな主張があっていいでしょう。

ただ一つ言えることは、今までは、あくまでもシミュレーションであったわけですが、これからの判断は、リアル世界に影響をもたらすということです。どちらの言説にも結果責任を伴います。そして日本人のその判断が、相手の次の行動を導きます。イデオロギー論争がらリアル・ゲームへの転換。そして、現実の不可逆性。一歩間違えたら、自身や子供の命や国家の存亡に直接関わってきます。基地問題でゆれる沖縄が、中国と対峙する最前線として、その自己判断の結果責任を最も深刻に負うことになります。

70年も続いたモラトリアムに慣れきった我々日本人ですが、「どちらともいえない」という思考回避は許されません。国民一人一人が平和を実現する=戦争リスクを最小化する手法を現実のものとして考える時期に来ています。憲法を護ること、護らないことは手段であって、目的ではないのです。もちろん、黒か白かでない、折衷案もあると思います。

同じことは中国にも言えます。彼らもまた選択を迫られています。経済状況が大変厳しい中で、国民の不満を逸らすために、一層軍備増強をして南シナ海や尖閣での影響力を行使するか、あるいは、まずは無駄な戦火を避けて、軍事費を削減するか、その中庸か。大切なことは、彼らも日本国民の判断を踏まえて判断するということです。既に、ゲームの賽は投げられたといっても過言ではないでしょう。囚人のジレンマに陥って、皆がルーザーになることは避けなければ行けません。

フィナンシャルタイムズの記事を引用

日本、台湾、韓国を含む同盟国から米国の核と安全保障の傘を取り除くというトランプ氏の公言は、確かに北京の一部の人間を心配させている。地域の核軍拡競争に火をつける可能性があるためだ。

だが、トランプ氏の孤立主義と、同氏が頻繁に口にする「ディール」好きを、中国の指導部はめったにないチャンス――第2次世界大戦以来張り巡らされた米国の安全保障協定の網の目を解きほぐすのだ――とも見なしている。中国政府は、地域における支配的地位に向けた当然の野望を米国のこうした安保体制が封じ込めてきたと考えている。

今年の憲法記念日は、後年振り返って、とても特別な日になるかもしれません。

Nick Sakai  ブログ ツイッター