ケーシックも戦線離脱、そしてトランプだけが残った

オハイオ州知事のジョン・ケーシック候補が米大統領予備選からの離脱を表明し、遂に不動産王ドナルド・トランプ候補が7月18〜21日開催の党大会における正式候補指名にリーチを掛けました。

ダブルライン・キャピタルの最高経営責任者(CEO)で新債券王の誉れの高いジェフリー・ガンドラック氏は、「トランプ候補が次期大統領になる」と大胆に予想。何とレーガン元米大統領に近いと指摘し「債務を基盤とした経済の立役者になる」と豪語します。レーガノミクスは軍事・社会保障拡大と減税をセットにした政策で財政赤字を拡大させ、国債の大量発行で資金調達を行ったわけですが、社会保障費の増加を国債で負担する構図を描いているのでしょう。少なくともトランプ候補、低金利政策の必要性を主張するだけに、ガンドラックCEOの強い味方になり得ます。

俄然注目されるのが、副大統領候補選びです。

ベテラン選挙戦略家がトランプ候補の下に集まり、スイング・ステーツでの勝利を確実とするような人物を選ぶため度重なる協議を続けていることでしょう。第一候補グループには、昨日の敵は今日の友、つまりは他の共和党大統領候補です。早速、フォックス・ニュースでのインタビューでトランプ候補はテッド・クルーズ候補を「嘘つきテッド(lying’ Ted)」から「タフで賢い男(a smart tough guy)」へあだ名を変更していました。ケーシック候補に対しては、「(副大統領候補に)検討するよ。討論会でも上手く付き合えたしね」と好意的そのもの。オハイオ州がスイング・ステーツの一つですから、当然でしょう。もうひとつのスイング・ステート、フロリダ州選出の米上院議員であるマルコ・ルビオ氏にも「もちろん考慮する」と発言しつつ、「ふさわしいと思う候補がたくさんいるからね」とも付け加えていました。

そのほかフロリダ州のリック・スコット知事をはじめ、ニューメキシコ州のスザンナ・マルティネス知事、サウスカロライナ州のニッキ・ハーリー知事、オハイオ州選出のロブ・ポートマン米上院議員の名前が取り沙汰されています。ただしCNNのインタビューで、スコット知事は観測を否定。ポートマン議員の広報担当も関心がないと明かすほか、軒並み敬遠する状況です。

ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事のシニア・アドバイザーも、副大統領候補に指名された場合受け入れるかとの質問に「Hahahahahahahahaha」と返す始末。トランプ憎さから忌み嫌うテッド・クルーズ候補に支持表したリンゼー・グラム米上院議員(ノースカロライナ州選出)に至っては、副大統領候補の受け入れを「タイタニックのチケットを買うようなものだ」と揶揄するほどです。

反対にトランプ候補が演説する時には常に傍らに立つニュージャージー州のクリス・クリスティー知事をはじめ、オクラホマ州のメリー・フォーリン知事、外交政策のアドバイザーも務めるジェフ・セッションズ米上院議員(アラバマ州選出)、そして米大統領選を戦った元神経外科医のベン・カーソン氏も、やる気を胸に秘めているようです。その他サラ・ペイリン元アラスカ州知事、ニュート・ギングリッチ元米下院議長もラブコールを待っていることでしょう。

SPのごとき様子のクリスティー知事は、全米レベルでの知名度が低くアウトの可能性大。


(出所:The Political Insider

米大統領予備選でトランプ候補がただ一人、撤退せずに残っているだけにブローカー・コンベンションの可能性はぐっと低下しました。では、このままスンナリとトランプ氏が正式候補に指名される舞台は整ったのでしょうか?

ここで思い出されるのが、オバマ米大統領がホワイトハウス年次記者晩餐会で放ったジョーク——「「出席者に魚か肉のどちらが良いかを尋ねたんだけど、共和党全国委員会(RNC)の全員が『ポール・ライアン』と書いたよ。」

共和党のラインス・プリーバスRNC委員長は、トランプ氏が事実上の共和党候補に浮上したことを受けフォックス・ニュースでこう応じました——「修復する時がきた」。今回の共和党大統領予備選は17人もの候補を抱え「物議を醸すものだった」と振り返り、「まだまだ気持ちは荒ぶったままで、(事態収束に)時間が掛かるだろう」と言及しつつ、ブローカー・コンベンションの可能性はないとの見解を示唆しています。今後の焦点はクリントン候補に絞られるため、共和党内が結束できるともコメント。一方で「共和党全国委員会(RNC)なしで、候補者は勝利できない」と語り、トランプ候補が共和党と協力するようになれば「準備が整う」と釘を刺していました。

トランプ候補にとって朗報は、#NeverHillaryのハッシュタグが出回り始めたことでしょう。インディアナ州の民主党予備選でサンダース候補が制し、その時の出口調査ではサンダース候補支持者の30%が本選でクリントン候補に投票しないと回答しています。反クリントン体制発足が#NeverTrumpを断ち切れるのか、少なくともトランプ候補の選挙参謀達は知恵を振り絞って大いに活用すること間違いありません。

(カバー写真:Fox News


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年5月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。