援助交際「30%→13%」は事実無根。ソースは?

尾藤 克之

昨年10月26日の記者会見における、国連児童ポルノ問題特別報告者の「現在、日本の女子学生の30%が援助交際をやっている」との発言は大きな波紋をよんだ。その後、30%は誤りで13%に修正された。しかしソースについては発表時にも問題視されたが具体的には示されなかった。その後、特別報告者本人から「誤解を招くものだったとの結論に至った」という趣旨の書簡が日本政府に届く。改めて経緯について簡単にまとめておきたい。

●過去の研究事例の整理

援助交際などの問題についてはいくつかの研究機関による報告が知られている。主なものとして、東京都生活文化局、ベネッセ教育総合研究所、全国PTA協議会が存在する。いずれもアンケート調査を実施し独自見解をまとめている。

1.平成8年度青少年健全育成基本調査(東京都生活文化局/1996)
2.青少年の生活と意識及び性に関する法制についての調査(東京都生活文化局/1997)
3.子供の社会環境についてのアンケート調査(全国PTA協議会/1997)
4.モノグラフ高校生(ベネッセ教育総合研究所/1998)

「平成8年度青少年健全育成基本調査」(東京都生活局)は援助交際について初めて言及した研究報告である。同報告によれば「あなた自身がそういうこと(援助交際)で大人からお金をもらったことがありますか(N=1221)と聞いている。そのなかで「ある=3.3%、ない=87.5%、NA=9.2%」との回答が得られた。翌1997年にも「青少年の生活と意識及び性に関する法制についての調査」が報告されている。

「モノグラフ高校生」(ベネッセ教育総合研究所/1998)によれば、援助交際の経験が1回でもあると回答した層は4.4%(N=868)である。この結果は、「平成8年度青少年健全育成基本調査」(東京都生活局)を照射する内容になっている。

「子供の社会環境についてのアンケート調査」(全国PTA協議会/1997)によれば、中学3年生を対象に調査したところ17%が「援助交際は問題がない」と考えており、13%は「抵抗を感じていない」と回答している。

昨年、国連特別報告者の発表した「現在、日本の女子学生の30%が援助交際をやっている」(その後、13%に修正)とした根拠は、同調査の結果を引用するなかで誤って解釈された可能性が高いと思われる。

●確認できるソースについて

これには諸説があるものの、1970年に創業したトーキョーウィークエンダー(日本で最も古い英語フリーペーパー)の記事が影響している可能性が高い。記者のジェイミースミス氏が1998年に公表した「Enjo kosai: teen prostitution, a reflection of society’s ills」という記事である。その中には以下のようなくだりがある。

According to a recent survey of junior high school students in their final year, 17 percent thought there is nothing wrong with enjo kosai and 13 percent replied that they felt no reluctance in practicing it.

「felt no reluctance」と記述されているので「抵抗を感じていない」と訳すのが正しい。「援助交際に抵抗を感じていない」と「援助交際をしている」はまったく意味が異なる。

さらに、2008年5月10日に、AsiaTimesがトーキョーウィークエンダーの情報源をベースに「SEX IN DEPTH」を寄稿する。本寄稿では誤訳が発生している。「According to a recent survey」というくだりがあるが、どの調査によるものか明示されていない。また全体のトーンとして援助交際を示唆した内容である。

2011年に、ECPAT(国際NGO団体)が「国別レポート(日本編2nd)」を公表。P9に「However, some estimates have put the number of school-aged girls practicing enjo kosai at about 13%=ある推計によると女子学生のうち13%が援助交際の活動をしている」と記載されている。

●変遷の整理について●

それでは変遷について整理したい。

1.「平成8年度青少年健全育成基本調査」(東京都生活局/1996)の研究報告にともない、若年層の性に対する意識や援助交際への関心が高まる。

2.「子供の社会環境についてのアンケート調査」(全国PTA協議会/1997)によって、中学3年生の13%が「援助交際に抵抗を感じていない」と回答していることが明らかになる。

3.1998年に、トーキョーウィークエンダーが「Enjo kosai: teen prostitution, a reflection of society’s ills」を発表。内容は「子供の社会環境についてのアンケート調査」(全国PTA協議会/1997)を踏襲している。

4.2008年5月10日に、AsiaTimesがトーキョーウィークエンダーの情報源をベースに「SEX IN DEPTH」を寄稿する。全体のトーンとして援助交際を示唆した内容。

5.2011年に、ECPAT(国際NGO団体)が国別レポート(日本編2nd)を公表。ある推計によると女子学生のうち13%が援助交際の活動をしているとの内容。

6.昨年10月26日、国連の児童ポルノ問題の特別報告者が「現在、日本の女子学生の30%が援助交際をやっている」と発表。その後、30%は誤りで13%に修正された。

7.特別報告者本人から「誤解を招くものだったとの結論に至った」という趣旨の書簡が日本政府に届く。

念のため注釈を付記しておきたい。まず解釈や関連性については不確実性があることから推測の域を出ない。また何らかの断定をするものでもない。既に公開されている情報やいくつかの文献を確認して整理したものであるが、結論を導き出すには更なる検証が必要である。ここで紹介した幾つかの文献については、各団体HP、国会図書館、文部科学省ライブラリーなどで閲覧することができる。

●尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト/経営コンサルタント。議員秘書、コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ)『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など多数。
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