ニューヨーカーをウンザリさせる、10の質問

ウォールストリートの第一線で働く南部生まれのアメリカ人から、突然「ニュージャージー州にあるミツワのスーパーマーケット行ったことある?」と質問を受けました。どうも彼は最近知ったらしく、私に感動を伝えたかったようです。思わず「あれ、マンハッタンからNJに引っ越したの?」と尋ねたら、「聞かれると思った。(NJの対面にある)ウェストサイドに住んでるよ!」との返答が。NYに住んではや12年の彼、名実ともにニューヨーカーの称号を得たせいもあって、どんなに家賃が高かろうとエンパイア・ステート(NY州)からガーデン・ステート(NJ州)へ移る気は毛頭ないようです。

私の質問がうっかりニューヨーカーのプライドを刺激したように、質問次第で彼らの気持ちをウンザリさせてしまいかねないのが面倒なところ。今日は、こちらを参照にどんな質問がウザイと思われるのか予習してきましょう。

1.「え、家賃いくらって?(Wait… your rent is HOW much?)」
→NYでは知り合って間もない他人に家賃を聞くのは挨拶代わりといっても、過言ではありません。家賃の高騰に悩むという共通事項があり、常に割安な物件を探し求め、かつ自分の家賃が適正か判断するために頻繁に情報交換します。しかし、ニューヨーク以外の居住者から家賃のバカ高さに驚愕され、しまいにはNYの家賃だけで東京なら1ヵ月分の生活費が家賃込みで賄えるなんて、聞きたくないのです。

2.「なんでソーホー(のような高級住宅地)に住んでないの?(I don’t get it, why don’t you live in [absurdly expensive neighborhood]?”)」
→かつての日本のトレンディ・ドラマをご覧になった東京居住者のように、ニューヨーカーもドラマに登場する物件を見て非現実的と認識しています。ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」や「ゴシップ・ガール」の舞台はもとより、20代の若いユダヤ系アメリカ人の貧しいNY生活を追った「ブロード・シティ」の水準だって、簡単にクリアできる水準ではありません。ニューヨーカーの生活はきらびやかに見えて、非常に質素なのです。

「ブロード・シティ」は、等身大のユダヤ系女性2人の奮闘を描いたコメディ。


(出所:The Atlantic

3. 「シカゴのピザの方が、NYのより美味しい(Chicago pizza is better than New York pizza.)」
→ニューヨーカーへの禁句の一つが、これ。野球で言えばヤンキースとレッドソックスのような敵対関係にあり、ニューヨーカーの気分を害すること間違いなしです。

4.「だけど、どうやって食料の買い出しをするの?(But how do you get your groceries?)」、「車の運転恋しくない?(Don’t you miss driving?)」
→車を運転していないからって、買い出しができないわけではありません。ニューヨーカーには車の免許すら持っていない40代男性も、存在しますしね。

5. 「セレブを頻繁に見掛ける?(Do you see celebrities everywhere?)」
→意識していないと、芸能人がいるかどうかなんて分かりません。皆さん普通の格好をしているので、結構気が付かないものです。筆者もスパイク・リー監督、映画「Xメン」で知られロック歌手レニー・クラヴィッツの娘であるゾーイー・クラヴィッツにも気づかず、後で友人に教えてもらったことありましたっけ。

6.「タイムズ・スクエアをいつもぶらぶらしてるんでしょ?(You must hang out in Times Square all the time, huh)」
→一度住んだ経験のある方ならご承知でしょうが、タイムズ・スクエアは完全に観光客のエリアです。ごった返す人混みに蒸し返す熱気に、ニューヨーカーは辟易しています。他の地域を案内するのはOKでも、ここだけは勘弁して下さい。

7.  「あっちこっちで、おしっこの臭いがする(It smells like piss everywhere.)」
→筆者もマンハッタンの駅構内で、つくづく痛感したものです。家賃も含めてNYに住む意義そのものを疑ってかかりたくなるので、あまり本音で語らないで下さい(涙)。

8. 「(ミュージカルの)『ハミルトン』を観に行かない?(Can we go see Hamilton?)」
→トニー賞16部門と過去最多ノミネートを記録したモンスター・ヒット・ミュージカルなんて、簡単に行けるはずがありません。1人2000ドル(約22万円)くらい用意すれば、ダフ屋で何とかチケットを入手できかもしれませんが。

9.  「タクシーかウーバーを使わない?(Why don’t we/you take a cab/Uber?)」
→家賃負担が背中に重く圧し掛かるニューヨーカーには、タクシーもウーバーも贅沢品です。飲み過ぎて夜中に帰る時くらいしか、わざわざ乗りませんよ。特にウーバーは、よっぽどの事情でないと使いません。

10.  「なぜ誰ともデートしてないの?こんなにたくさん人で溢れ返っているのに!(How can you not be dating anyone? There are people everywhere!)」
→NYでは、東欧系美女ですら5年以上彼氏がいないなんてザラ。出会いが豊富でも、彼氏彼女の関係にたどり着くなんて、至難の業なんです。その一方で、なぜかプレンティ・オブ・フィッシュやティンダーなど、ネットを駆使した出会い戦略で結婚につなげた兵の話が度々耳に入って来ることも。普通の出会いより、ネットで恋の花を咲かせる方が真剣な恋愛につながる時代なのでしょうか。

――もちろん、以上の質問を絶対しちゃいけないなんて申しません。ただ、ちょっとエチケットとして心に留めておけば、受け答えする側も気持ちが良いもの。アメリカ人だからとストレートに疑問をぶつけるより、日本人らしくほんのり思いやりを利かせた言葉で尋ねた方が無難でしょう。

(カバー写真:elysiumcore/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年5月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。