【映画評】世界から猫が消えたなら

30歳の郵便配達員の僕は、ある日、余命わずかであることを宣言される。とまどう僕の前に、僕と同じ顔をした悪魔が現れ、僕に、身の回りものをひとつ消すたびに一日の命をくれると言った。この提案に乗ることにした僕のまわりで、電話、映画、時計などが消えていく。そして猫も。大切なものを失う中で、僕はかつての恋人に再会することに。恋人や親友、疎遠になっていた父の想いに触れ、亡き母の手紙を受け取った僕は、ある決断を下すことになる

余命わずかの青年が大切なものを失くすことで周囲の人々の想いを知るヒューマン・ファンタジー「世界から猫が消えたなら」。原作は「電車男」や「モテキ」などのヒット作で知られるプロデューサー、川村元気による同名小説だ。難病もの、空前の猫ブーム、泣けると評判の宣伝戦略と、見る前からちょっとあざとさが気になる映画だったのだが、あえて先入観を捨てて見てみると、それほど悪くない。主人公の僕が失う、電話、映画、時計などのアイテムには、それぞれ恋人や親友や父親との大切な思い出がつまっている。それらが消えるということは、思い出や記憶を失うということなのだ。別れた恋人との思い出は、いっきに南米まで広がって、生きることを肯定する物語へと飛躍する。

イグアスの滝の映像は壮観だが、どうにも話の流れが唐突すぎて、イメージ先行のような気がしてならない。ただ、この作品に登場するプロの俳優猫・パンプの名演は特筆だ。猫は、亡き母との思い出の象徴として描かれるが、動物の自然な演技は難しいのに、実にナチュラルで、このコが画面にいるだけで、ほっこりさせてくれる。劇中には、映画愛があふれていて、作品に対する物足りなさを感じつつも、映画好き、猫好きとしては、つい点数が甘くなってしまった。

【55点】
(原題「世界から猫が消えたなら」)
(日本/永井聡監督/佐藤健、宮崎あおい、濱田岳、他)

(親子愛度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年5月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。