電気自動車に搭載するリチウムイオン電池の製造を巡って、中国と韓国が熾烈な市場競争とつばぜり合いを繰り広げています。エコカーといえばハイブリッド車、将来的には燃料電池車を軸に据える日本とはかなり違いがあります。
韓国政府・産業通商資源部は昨年、2030年までの新エネルギー産業戦略を発表し、電気自動車(EV)の累計販売台数を100万台に到達させる目標を立てました。この目標では、韓国では2030年までに市街地を走る3万3000台の路線バスをすべてEVに置き換える、さらに大型の電力貯蔵システム(ESS)のカバー範囲拡大するなどの、全国のEVインフラ建設を加速させるとしています。
韓国は、スマートフォンの次の輸出商品の柱を電気自動車に置いていて、2030年までに輸出を含めた新エネルギー市場規模を100兆ウォン(約10兆6000億円)にさせる野望を抱いています。
自動車会社の雄、現代・起亜自動車は、「EVアイオニック」を今年6月に発売予定です。業界最高水準である10年/20万キロメートルのバッテリー寿命を保障するそうで、テスラのモデル3の航続距離が300キロを超えるのを意識して、現代の担当者は「300キロメートル以上の長距離走行ができる電気自動車の核心はバッテリーだ。」と明らかにしました。(出典:中央日報)
一方で、リチウムイオンバッテリーを製造するLG化学は、EVの将来性を見越し、先行する日本メーカーを「攻めの営業と迅速・膨大な資本投下」で凌駕しようとしています。日本のマスコミは報道していませんが、LG化学が年間22.9万台分のバッテリーを製造するギガ工場をポーランドのワルシャワに建設するという報道が先月から駆け巡っています。LG化学は韓国・中国・アメリカに工場を持ちますが、それらはメガ級で、このワルシャワはギガ級です。何故ポーランドかというと、同社はすでにGMオペル、ルノー、ダイムラー、フォルクスワーゲン、アウディ、ヴォルボなど主要欧州EVメーカーと契約しているからです。
しかし、韓国がやはり一番の市場と期待しているのは、中国です。ところが中国政府は2016年2月に、LG化学・サムスンSDIなど韓国企業のリチウムイオンバッテリーを電気バス補助金の対象から除外したと発表しました。電気バスは中国電気自動車バッテリー市場の約40%(昨年365億人民元)を占める核心車種です。中国政府は補助金対象の電気バスに入るバッテリータイプをリン酸鉄リチウム(LFP)方式だけに許可したのです。これは、LG化学とサムスンSDIが生産するニッケルコバルトマンガン(NCM)など三元系バッテリーを除外する措置です。中国政府は「三元系方式で使われる陽極制の発火点が低く、さまざまな人が乗るバスには適合しない」と説明しています。三元系はLG化学・パナソニック・サムスンSDIなど世界のバッテリー企業1~3位が全て使っている検証済みの新技術なのにもかかわらずです。LFP方式はBYDなど中国企業だけが採択しています。
折しも、LG化学とサムスンSDIは中国市場攻略のために2015年10月それぞれ南京と西安にバッテリー工場を建てたばかり。工場完工から3カ月後に不意打ちを食らった格好です。
業界関係者は「中国が自国のバッテリー業界のロビー活動を受けて、このような措置を取ったとみられるが最近、韓半島(朝鮮半島)の『高高度ミサイル防衛体系(THADD)』配備の動きが影響を与えたという話も出てきていており鋭意注視している」と語っているそうです。
中国と韓国のつばぜり合いは決して、対岸の火事でなく、電気自動車用のリチウムイオン電池生産で先行するといわれる日本勢も、倍々ゲームで拡大する市場に食らいついていかないと、規模の経済で圧倒されてしまいます。