「シルバー民主主義」というのは「老人優遇の政治」の言い換えだ。中位投票者が60歳近い日本では、老人に迎合しないと選挙に勝てないので、政治家は社会保障にふれようとしない。しかしこれを「世代間対立」とか「老人の食い逃げ」というのは誤りだ。著者も指摘するように、日本の財政はもう食い逃げできる状況ではない。
厚労省の計算でも、毎年116兆円の社会保障支出に対して年金保険料は65兆円しかなく、50兆円も赤字だ。年金生活者のもつ(政府に対する)年金債権は、90年代の邦銀のような不良債権になっているのだ。
民間の保険会社ならとっくに倒産しているが、国の場合は赤字を国債で穴埋めできる。その穴埋め(社会保障関係費)が、今や国の一般会計の1/3を占める異常な財政構造になっている。今後も赤字は大きくなる一方なので、そのうち国債が売れなくなると、年金債権は4割カットされる。
さらに危険なのは、ブランシャールの予想するように5~10年のうちに金利上昇と激しいインフレで政府債務が踏み倒されるハードランディングだ。今は世界的に低金利だが、南欧などの不良債務国の金利は上がっている。
それを避けるソフトランディングの方法としては、年金の積立方式への移行や所得制限、あるいは年金目的消費税など、いろいろ提案されているが、与野党ともに無視している。与党はもちろん、野党も労働組合の最大の仕事は年金の死守だからだ。
しかし計画的に不良債権を処理しないと、債権カットやインフレが起こったとき最大の被害者は、年金生活者だ。本書の帯にも書かれているように、「老人に甘い政治のツケは老人が払う」のである。