The Economist:大儲けしたぞ

果たしてこの記事が読者のみなさんの関心を呼ぶのかどうか、いささか心許ないところもあるが、6月20日に文春新書から刊行予定の『原油暴落の謎を解く』をお読みいただく方には参考になるだろうと思い、紹介しておきたい。

“Striking it rich” というタイトルがついており、2016年5月28日(明日だ!)のプリントバージョンだとしてネットで検索可能な記事である。 “A niche business straddling journalism and oil is proving surprisingly lucrative” というサブタイトルがついている。民泊などの宿泊予約で成長しているAirbnbや、タクシー予約決済アプリで日本にも上陸しているUberなどの株主でもあるアメリカの投資会社General Atlanticが5月23日、英国の石油を中心とする商品の価格情報会社Argusを14億ドルで買収したことを解説している記事だ。
“straddle” (ストラッドル)という語の説明をしておいたほうがいいだろう。

これは先物のオプション取引で使用されている手法の一つで、ボラテリティ(価格変動幅)が大きいと予想されるが、果たして上がるのか下がるのか、方向性が読めない時に、行使価格と受渡し月が同じプット(売る権利)とコール(買う権利)を同時に買うやり方である。

たとえば(本当に仮の話で、いまこれが可能だというわけではない)、2017年12月受渡しのWTI原油を100万バレル、50ドルで売る権利(プットオプション)をプレミアム3ドルで、同じく50ドルで買う権利(コールオプション)を3ドルのプレミアムで同時に買うのである。そうすると、コストはバレルあたり6ドルになる。もし、価格が53ドルより高く、あるいは47ドルより安くなれば、結果として儲かる、という仕組みである。47ドルと53ドルの間で推移した場合は儲からないが、たとえば価格が60ドルになったら、50ドルで売るオプションは放棄して、50ドルで買うオプションを行使し、50ドルで買ったものを60ドルで売ればバレルあたり10ドル儲かる、6ドルのコストを計算しても4ドル、100万バレルなら400万ドル儲かる、というわけである。

つまり、このサブタイトルの意味するところは、journalismとoilの「両方に賭ける」ことが驚くほど儲かるニッチ・ビジネスだった、ということだ。

さて本論だが、この14億ドルの買収について、反応は「驚き」と「嫉妬」だった、と伝えている。
「驚き」とは、石油価格情報は石油そのものより価値があるのか、というものであり、「嫉妬」とは、ライバルのPlatt’sの社員たちが、自社株を持っているArgusの記者(750人の内の4分の1ほど)が巨万の富を得ることへのものである。

『原油暴落の謎を解く』の中で詳しく説明しているが、現在の石油市場において、先物市場とならびPlatt’sやArgusなどの石油価格情報会社が公示している「価格」が極めて重要な役割を果たしている。特にサウジなどがアジア向けに販売している中東原油は、Platt’sが公示しているドバイ原油とオマーン原油の平均値を「指標原油」として使用しているので、その重要性は際立っている。

Argusを買収したGeneral Atlanticは、サウジが米国向け長期契約の販売価格決定の指標原油としてArgusが公示している米国産4原油の平均値(ASCI=Argus Sour Crude Index)を利用することを発表した2009年ごろから興味を持っていたそうだ(2010年1月の船積み分から、指標原油がそれまでのWTIから変更された)。さらに今後、Argusが公示しているWTI原油現物価格が、昨年末から米国原油の輸出が解禁されたこともあり、業界では最有力のPlatt’sの公示している北海ブレント原油(サウジ原油の欧州向け販売の指標原油)に打ち勝って世界的に使われるようになることを期待している、としている。

Platt’sもArgusも、主要な収入源は購読費だから、より多くの会社(サウジアラムコなどの国営石油を含む)が販売価格を決める指標原油として、両社が公示しているものを使用することになることがさらなる「成長」の根源にあるのは事実だ。

でも、Argusの業態はよく知らないが、14億ドルの価値があるものなのかな?


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年5月27日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。