オバマ大統領のスピーチ

松田 公太

オバマ演説@広島

私は1970年代の約7年間、11歳から17歳までを米国で過ごしました。

当時はまだ戦後三十数年。人々の脳裏に色濃く日米大戦の記憶が残っている頃です。

何かある度に“Remember Pearl Harbor!” “We bombed Hiroshima and Nagasaki!”と叫ばれ、悔しく悲しい思いをしました。

「広島と長崎に原爆を落としたことは間違いだったと思わないのか?」と友人に何度も問いかけたことがあり ますが、「間違っていない。落とさなければ、日本人は戦争をやめな かった」と、必ず同じ答えが返ってきました。

私は「何十万人もの市民を巻き添えにしなくてはならない理由は無かった。例えば街から離れた山中や、 湾岸に落とすだけで、十分にその威力を証明できただろうし、少なくとも二回も落とす必要は無かったはずだ」と反論したものです。

それから三十年。

私は車中のTVで、冒頭から誤った同時通訳をする通訳者(緊張してしまったのでしょう)の声がなるべく耳に入らぬよう、一意専心に オバマ大統領の声を追っていました。

歴史的な広島平和記念公園でのスピーチ。

それは心に残る、素晴らしい内容だったと思います。

また、直接的に過ちを認めたり、謝罪を表すような言葉はありませんでしたが、「アメリカによる原爆投下は間違いだった」と、暗に示唆するオバマさんの「気持ちが入った言葉」が あったことを、皆様にお伝えしたいと思います。

それは以下の部分です。

『We must change our mind-set about war itself. To prevent conflict through diplomacy and strive to end conflicts after they’ve begun. To see our growing interdependence as a cause for peaceful cooperation and not violent competition. To define our nations not by our capacity to destroy but by what we build. And perhaps, above all, we must reimagine our connection to one another as members of one human race.
For this, too, is what makes our species unique. We’re not bound by genetic code to repeat the mistakes of the past. We can learn. We can choose. We can tell our children a different story, one that describes a common humanity, one that makes war less likely and cruelty less easily accepted.』

 

『私たちの戦争に対する考え方を変えなくてはなりません。外交的手段で紛争を防ぎ、始まってしまった紛争を終わらせるための 努力をしなくてはいけません。我々の相互依存度の高まりを暴力的な競争ではなく平和的な協力で実現しなくてはなりません。破壊する能力ではなく、何を築いたかで国を定義づけなくてはいけません。あるいは何よりも、同じ人類のメンバーとしての繋がりを再び確認することが必要なのでしょう。

それこそが、また、我々人類を比類なきものにしています。我々は遺伝情報で、過去の過ちを繰り返すよう拘束されてはおりません。 私たちは学ぶことができます。私たちは選択することができます。私たちは子供達に戦争を受け入れがたく、実現しがたくするために、共通の人間性について別のストーリーを伝えることができます。』(松田訳)

他国を徹底的に 「破壊する能力」を手にし、それを示したのは米国です。
そして、「繰り返してはならない過去の過ち」とは、正しく原爆投下のことを指しているのです。

勿論、一人称複数の“WE”とすることに よって、歴史上の全ての国を含んでいるという体にはしていますが、昨日のオバマ大統領の言葉は、矢印を自国・アメリカに一番強く向けているのが分かりました。

ここから日本と米国の関係は新しい一歩を踏み出すことになります。
一足飛びにはいきませんが、最初の一歩を踏み出して下さったオバマ大統領の功績は大きいと思います。

きっと近い将来には「広島と長崎 で多くの市民の命を奪ってしまったことには謝罪したい」という言葉が時の大統領から発せられるようになることでしょう。

私も、今年の冬には高校の30周年同窓会がマサチューセッツ州で開催されますので、友人達にも心境の変化がないか聞いてみたいと思います。


編集部より:この記事は、タリーズコーヒージャパン創業者、参議院議員の松田公太氏(日本を元気にする会代表)のオフィシャルブログ 2016年5月28日の記事を転載させていただきました(画像はホワイトハウス公式サイトの動画より)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は松田公太オフィシャルブログをご覧ください。

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